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食事の後、薫はデズモンドと共にお茶の時間を持った。デズモンドのリクエスト通りとは言い難いが、なんとなく二人きりで。まあ、少し離れたところにリアムとジョイスが向かい合って座りお茶を飲むという不思議な光景はあるものの。
「これから暫く二、三日おきにゲストを迎えるのは大変だろうけど、もし俺が話し相手として息抜きになるのならいつでも呼んで。それはわざわざ夕食への招待でなくていいから」
「ありがとう。優しいのね」
「優しいのは女性にだけ。中でも特別に優しいのは、キャロル、君にだけ」
デズモンドに色気切れの日はないようで、『君にだけ』と見つめられた瞬間に薫は何故か頷き、その雰囲気に当てられるように頬が火照った。離れたところに古くからの友人のリアムがいようとデズモンドはお構いなしだ。
「でも、夕食は約束だから」
「もういいよ、律儀に守らなくて。俺はもう十分約束を守ってもらったと思っているから。それに俺達の関係はあの頃と変わった。だから、これからは友人、出来れば未来を共に歩むかもしれない異性の友人を招くと思って欲しい」
なかなか際どい、そして頷き辛い表現をデズモンドは使ってくる。でも、解釈のしようによってはデズモンドの言葉は事実。何も間違ったことは言っていない。だから薫は正直な言葉で返事をした。
「そうね、あなたとは今以上に良い関係を築き、これから先もずっと付き合っていきたい」
デズモンドは気付くだろう。薫が敢えて友人とは言わず、良い関係という言葉を用いたことを。話の表面だけではなく、その深部まで聞こうとするデズモンドがそのサインを見逃すはずがない。その証拠に、目の前で色気が丁度良い温度で仕上がった。デズモンドの誰をも惑わす瞳に、熱が帯び始めたのだ。これでは折角話をしようと思ったのに、薫はただデズモンドを見つめるだけになりかねない。だから薫は雰囲気を変える為に言葉を絞り出した。
「これからは約束を果たす為ではなく、楽しいひと時を共有する為に食事に招くわね」
「ありがとう。同じ食事にお邪魔するのでも、意味合いが変わるのが堪らなく嬉しいよ。これからは約束を果たす為の義務ではなく、キャロルの気持ちになる」
これもデズモンドが言っていることに間違いはないが、『キャロルの気持ち』と言われると何だか恥ずかしい。実年齢はデズモンドより上な薫なのに、会話は上手くリードされっぱなしだ。けれどもそこに嫌な感じはなく、不思議なドキドキ感があるのが心地良い。このままこういう遣り取りを続けるのも楽しいだろが、薫はデズモンドにこそ聞いてもらいたい内容を話すことにしたのだった。




