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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「リプセット公爵夫妻が滞在する時は、こういうことはしないで欲しい。俺はキャロルの護衛だから、離れるわけにはいかないし」

「いかないし、その続きは?」

「あの人達はこういうことを望まないと思う」


ジョイスが言う『こういうこと』とは、ハーヴァンがクロンデール子爵夫妻を遠乗りに案内することだ。遠乗りと言っても、裏手に広がる山を少し散策する程度だが。

夫人には見守るだけでなく、親子三人水入らずの時間を持ってもらいたいという薫の粋な計らいをジョイスは指しているのだろう。遠乗り自体を指すのではなく。


だから薫は少し意地悪をすることにした。

「ジョイの言う通り、公爵夫人は望まないでしょうね、遠乗りは。だから別のことを考えないと。わたし、公爵夫人と一緒に何か特別なことをしようかしら。あなたは常に傍にいるのよね?もしかしたら公爵もご一緒されるかもしれないからその時は護衛をお願い。折角ここまで来るのだから、お二人も護衛をぞろぞろ連れて歩きたくないでしょう」

「…分かって言ってるって理解でいい?」

「何を?」

「…」

「拗ねないで、ジョイ」

「拗ねてなんか」


あまり虐めるのは可哀そうだが、スカーレットの記憶にはない大人になってからのジョイスの拗ねている表情が薫にはとても可愛らしく見えた。ファルコールで暮らすことがジョイスにとって良いのか悪いのかは薫には分からない。けれど、ここに居る限りは今のように素の表情で暮らして欲しいと思った。


「どうかした?」

「ううん」

「一瞬、キャロルが悲しそうな顔をした気がして」

「悲しくはない。ちょっと真剣に考え事をしていたの」


取り繕うとは正にこのこと。ジョイスの指摘は正しい。なんだかんだ言ってもジョイスは公爵家の三男。いつまでここに居るのかは分からない。それが薫には悲しかったのだ。今回のクロンデール子爵夫妻は、見る限りハーヴァンを王都へ連れ帰る為に来たのではないと分かる。現に子爵は馬用施設を作ることに興味津々どころか、しっかり加わりハーヴァンに自身が持つ経験、そこから得た知識を分け与えていた。ここでしっかり貢献するようにと。しかし、リプセット公爵はどうだろう。アルフレッドの側近ではなくなってしまったが、公爵家の三男としてジョイスの使い道を考えていたら…。


「その考え事は、誰かに話したらすっきりするだろうか?もしそうなら、俺は君の話を仮令天気の話でも聞くために傍にいると思い出して」

「ちょっと話し辛いわ」

「でも、これからもずっと続くことだから、慣れて欲しい。呟くように話すだけでもいい。心に溜めず、吐き出す方が楽になるだろうから」


薫は一度大きく息を吸い込むと、今度は小さな声で囁いた。

「ずっと続くって言ってくれたから、もう大丈夫。リプセット公爵夫妻があなたを王都に連れ帰るのではないかと考えただけ」


ジョイスはこういう時はどうやって寄り添えばいいのか暫し悩んだ。そして、スカーレットの手を取り『ありがとう』と伝えたのだった。


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