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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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薫は母子家庭で育った。だからなのかは良く分からないけれど、夫婦の愛というものをテレビドラマの中から感じ取るしかなかった。

こうしてクロンデール子爵夫人の夫へ対する言葉を間近で聞き、そこから愛情を感じ取る。それはとても貴重で薫のこれからに対し重要なことに思えた。


仕事で沖縄を除く様々な場所へ出かけた薫。国内しか行ったことはなかったけれど、それでも世界は広いと思っていた。考え方の異なる大勢の人間が、それぞれの文化の中で暮らす。それを見聞きする中で、薫は人より多くの経験をしていると思っていたのに…。愛という一つのことに絞ると、実は狭い世界しか見ていなかった、否、見ることが出来なかったのだろう。


薫が知るのは、母から、そして勇大からの愛情。勇大に関しては、生きている時はあまり感じることは無かったが、モンドとイマージュが見せてくれた夢のお陰で大切には思っていてくれたと分かった。ただ、そこにあったのがどういう種類の愛情かは分からなかったが。


今までに迎えた三組の夫婦。それぞれが築いてきた夫婦としての時間は違う。それに伴い愛情の形成の仕方も。前リッジウェイ子爵は夫人が気になることを、気のせいだと放置しなかったから今サブリナはここにいる。結婚に至った経緯もその後の生活も皆違うのだから、その分の数だけ出来上がる愛情も違うのだろう。


同様に、そこで育つ子供が理解する愛情も違って当たり前。しかも良いお手本もあれば、悪いお手本もある。

公爵家で王子の側近として育ったジョイス、その外見や生まれた状況に苦しんだデズモンド。王子として生まれ、決められた道をすすまなければならなかったアルフレッド。彼らがどういう愛を育てたのかは、その心に触れてみないと分からない。

みんな心の深い部分は見せたくないから守ろうとする。デズモンドはああいう態度を標準にすることで、本当の自分の心を守っているのだろう。


「その『こっそり』は、見ている相手にも実は『こっそり見ている』と分かる場所がいいですか?」

「あら、お気遣いありがとう。でも、どこでも大丈夫。わたくしの姿が見えていようと、見えていまいと、夫は分かっているのではないかしら?」

「ふふ、分かりました。午後、ハーヴァンが温泉で馬を洗う時間があるんです。わたしから子爵にその場で立ち会ってもらい、施設の参考意見が貰えないか尋ねてみます。子爵も既にご利用いただいているので、意見はあるでしょうから。そうすれば、その流れのまま施設の最終打ち合わせにもご参加いただけそうですし。これなら、子爵がハーヴァンを鍛える様子が何度か見れるのでは?」

「そうね、楽しそうだわ」

「打ち合わせは食堂の片隅で行うと思うので、夫人はその時キッチンでお菓子作りを手伝ってみては?出来立てでお茶がいただけたら最高ですから」

「まあ、それもいいわね」


テレビ画面で映し出される筋書きのある夫婦と違い、クロンデール子爵夫妻に『これから』を提案するのはとても楽しいと薫は感じた。一つ一つの出来事が二人に喜びを与えてくれるだろうから。

そして薫は思った、自分にも一番近くで想い出を語り合える特別な人が欲しいと。


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