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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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ファルコールはこの国の中で最も早く秋を感じられる地域のようで、夏の終わりともなると朝晩は冷え始めたのだった。


この頃になると、ふかふかのイギリス食パンを利用したサンドイッチ、パングラタン、ピザがファルコールのあちこちの店で提供されるようになり、国境を越える旅人や商人達が食事と温泉を目的に滞在するようになっていた。加えて近隣の町から温泉目当ての滞在客や、ファルコール特別法のお陰で隣国からの訪問者も増え始めていた。人の出入りが町の人に収入をもたらし、それにより経済活動が盛んになるという好循環が生まれようとしていたのだ。


薫がテレビで観ただけで、実際に訪れたことがないバーデンバーデン。台湾の朝食のおぼろ豆腐同様、『観た』ことしかない町を目指しているのでこの路線でいいのかはわからない。けれどこれはこれで、ファルコールという町が形成されていくようで薫は毎日が楽しかった。


けれど、そんな中でやはり逃してしまっていた。恋を。


デズモンドから発せられる言葉は通常運転で日々甘い。しかし、それがスタンダードとなっているので、その先へ向かうにはかなりハードルが高くなってしまっている。甘い囁きを受け入れ、その先となると行き着く先はかなり濃厚な関係しかないように思える。


ジョイスはジョイスで、ジョイと名乗っていても公爵家でしっかりと教育を受けた者。自らが発した言葉の責任を理解し、行動を実行中。謝罪の時に言った通り、スカーレットの話を聞き、寄り添い、守るを徹底して遂行しているのだ。あの時『今も好きだ』と言ったのに、そのことだけを置き去りにして。薫とて、ジョイスに対し『わたしのことを好きと言ったけれど、その後は?』と催促など出来はしない。何故ならあの時に変な重みを感じ『わたしとあなたはこれから友人として、良い関係を築いていきましょう』と言ってしまったのは薫で、ジョイスはその言葉を忠実に守っているとも考えられるのだから。


二人の態度を足して、2で割ったら…。

そんなことを頭の片隅で思いはしても、薫が行動に移さなければ何も起きようはない。時間の経過と共に二人の行動自体が日常になってしまっている。そして、時間だけは確実に過ぎ、いよいよゲストの受け入れ再開が目前に迫ってしまっては薫の性分上優先すべきことは決まっている。



再開に合わせてやって来る一組目は、何とハーヴァンのご両親。即ちクロンデール子爵夫妻。前世で子供の職場訪問は聞いたことがあるが…、その反対はかなり恥ずかしいのではないかと薫は思った。


ケビンが言うには、ファルコールの館滞在はとても人気でクロンデール子爵夫妻を受け入れるにはこの日程しか都合が付かなかったそうだ。それに久し振りのゲスト受け入れなので、クロンデール子爵夫妻は練習にちょうどいいだろうと。結構な金額を頂くのにそれは申し訳ない気がする。けれど練習ならば色々試して、それが喜びや満足に繋がればいいと考え、薫は準備を進めたのだった。勿論その準備にはハーヴァンの活躍する姿を見せることも含めたほうがいいだろうと目論見ながら。


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