王都オランデール伯爵家35
全てが中途半端、それが日々オランデール伯爵の思うことだった。何か一つでも、完璧なことがあればまだ救われたのだろうが、そんな期待を抱くことは早々に諦めた。
サブリナが一人で行っていた仕事の一部はメイド長が引き継いだ。一部しか引き継いでいないというのに、メイド長の仕事は中途半端というより伯爵がやり直した方が速いのではないかと思えるレベル。どうして数年前までやっていたことが、ここまで出来なくなるのか聞きたくなるくらいに。しかしメイド長を呼びつけ何故出来ないのか理由を尋ねれば怒りがこみ上げそうで、最初の内はそれを伯爵は避けていた。過去にやっていたことなのだから、徐々に慣れるまで待つ方が冷静さを欠くよりはマシだろうと。けれど、ただ出来ないのと理由があって出来ないのとでは意味合いが違う。伯爵はいくら腹立たしかろうと、最終的にメイド長を執務室へ呼び出し話をすることにしたのだった。
「申し訳ございません。サブリナ様を苦しめる為に口頭でしか情報を伝えなかったのです。そして、重要なことだけに他者の目に入らないよう書面にも残してはならないと伝えました」
メイド長を呼び出して分かったのは、悪意を持ってサブリナの指導をしていたということ。前回は稚拙な資料を渡していたのだと理解したが、それだけではなかった。そしてメイド長は自らの発言に苦しめられているということだった。数年前に自分がどういう指示をしたかなど、その時の思い付きだった為に。
「では、サブリナが作った書類を見て辿れば何とかなるだろう」
「それが…完成後は内容を確認して、翌月に再利用しないよう添付されていたものは別にしていたもので…」
「その別にしたものを」
「申し訳ございません。サブリナ様が探し辛いよう、適当にしまったのでどこに何があるのか…」
それはしまったとは言わない。適当に放置しただけだと伯爵は思った。メイド長は過去のものを参考にしたくても、探すのに時間が掛かってしまうと言いたいのだ。更に、話していく内に同じ子爵家出身のサブリナへ、メイド長が随分と嫌がらせ紛いのことをしていたことも分かった。サブリナは本当に賢かったのだろう、無駄な衝突を避ける為に一人で全てをやってのけてしまったのだ。だから、知りたい情報を探したとしてもサブリナの頭の中にしかない可能性がある。
探すのにも時間が掛かるし、場合によってはそもそも残されていないかも知れない。だからメイド長がこんなお粗末な書類を作ったのだと伯爵は理解するしかなかった。
「使用人によっては家へ貸し付けた額の元金と利息を月々の賃金から返済している者がいる。何としても貸付残金と利息が現在は何パーセントか調べろ。おまえが言うように、人それぞれ条件が違うから他者に見られないようにしていただろうがな。利息も残金が減れば、低くなっている者がいるはずだ。それを一枚の紙にまとめるように。どこの貴族家で重要なことを口承で伝えるというのだ。普通は大切なもの程記録に残す。だからか、おまえも最初はサブリナに記載された紙を渡しただろうが」
「…はい」
「どうだ、サブリナの様に過去の支払い額を調べて利息を再計算すればいいだろう。そういう鍛え方をサブリナに用いたおまえなら、寧ろ簡単なのではないか。本来ならば存在する契約書を確認するのが一番早いが、どこにしまったかおまえが思い出せないことにはどうにもならんからな」
メイド長の顔を見て、この仕事がいつまでに出来るのか尋ねることを伯爵は止めた。そして暗い顔のメイド長が去ると、伯爵は執事にジャスティンを呼びに行かせたのだった。




