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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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薫が初めてファルコールで体験した暴風雨は、そろそろ寝る準備という段になった頃小雨になりだした。


許されるならば、明日は雨上がりなのでキノコ狩りに行きたい。けれど、ケビンのあの話し方ではとても外に出してもらえないだろうと薫は残念に思っていた。

そんなことをぼんやり考えている時だった、ナーサが扉をノックしたのは。


「キャロルさん、実は…、詰め所の私兵の方がいらしています。彼等には判断のつかないことが発生したようで」

こんな時間に雨の中、わざわざ私兵がやって来たのだ、理由があるのは間違いない。それも翌日に持ち越せない理由が。


「分かったわ、直ぐに話を聞きに行きましょう」

ナーサと共に一階の談話室へ向かうと、既に二人の私兵とケビン達は何かを話し終わったようだった。四人の表情から、話した内容は良いことではなさそうだ。

豪雨でどこからか吹き出した水の流れに砂金が入っていたので、明るくなり騒ぎが起きる前に何とかして欲しいという嬉しい話ではないだろう。あって欲しくないことが発生しているとその表情は物語っている。


「わたしでないと判断できないことが起きているという理解で正しい?」

「はい。それもキャロルさんではなく、相手はスカーレット様の判断を求めています」

「相手、そしてスカーレットとしての?どういうことか順を追って教えて」


やって来た二人は、何が起きたのか要点を分かり易く話してくれた。仕事柄重要なことに順序を付け手短に話すことが上手いのはこういう時に本当に助かる。


詰め所にやって来たのはリプセット公爵家の人間と名乗る者とその従者。私兵が既に男性が見せた紋章の図柄がリプセット公爵家のものなのは確認済みとのことだった。


当初の予定でいけば、二人はファルコールを通過するだけだった。しかし、荒れた天気で馬が足を取られ従者が怪我をしたという。それも、体調不良だった従者に手綱を握り続ける力がなく引き起こされたことだった。


やむを得ずファルコールで滞在することにした二人だが、折からの悪天候でどこにも空き部屋がない。困っていたところに、少し離れたところにホテルがあると聞き私兵の詰め所までやってきたそうだ。ホテルと勘違いして。

しかしそれは無理もない。暗がりの中を進んで来たのだから、最初に辿り着いた詰め所をホテルだと思ってしまったのだろう。



「その方はご自身を紛れもなくリプセット公爵家の人間だと主張し、疑わしければここに一晩縛り付けてもらってもいいとおっしゃっています。その代わり、怪我をしている従者を助けて欲しいと」

「何故、一晩縛り付ければリプセット公爵家の人間かどうか判明すると言っているのかしら?」

「…はい、スカーレット様と面識があるそうです」


リプセット公爵家の人間ならば確かにスカーレットと面識がある。しかし、そこまで付き合いのある家ではないのでキャストール侯爵がスカーレットの所在地を告げたとは考えにくい。

とすると導かれる答えは一つ。スカーレットの所在地を確認などするのは王家くらいだ。その線でいけば、リプセット公爵家でスカーレットがファルコールに居ると逸早く知れる人物が一人いる。


「一晩縛る必要はありません。その方はジョイス・スティルトマン・リプセット公爵子息でしょう。そうですね、わたしが、対応します。但し、キャロルとして。それで、従者の怪我は?」

「怪我よりは、衰弱が問題かと。詰め所に来た時には、キャロルさんが言うジョイス様とやらが抱えて連れてきましたから。途中から馬が歩かなくなったので、木に括り付け従者をここまで連れて来たそうです」


ファルコールの町は山間部に位置するので、標高が高め。領民が暮らすエリアは整備され平らなところが多いが、ここに来るまでにはそれなりに坂がある。それは万が一の際を想定してのこと。更にはこのファルコールの館を遠近法により上手く私兵の詰め所で見えにくくしているのだ。流石キャストール侯爵と言わざるを得ない建物の配置だが、故に馬を置いてきたジョイスは従者を抱え坂道を登らなくてはならなかっただろう。自分の衣服も雨を含み冷たく重くなるなか、従者を抱えての坂道は堪えたはずだ。


「状況は理解出来たわ。雨の中、あなた達には本当に申し訳ないのだけれど、直ぐに二人をここまで運んできて」

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