王宮では55
アルフレッドが急いで封を開けると中からは、懐かしいと言う程には時間が経過していないが、それでもやはり懐かしいと思わずにはいられないジョイスらしい文字が現れた。そしてこれまたジョイスらしい前置きという断り書きが手紙の出だしに並んでいた。
この手紙は幼馴染み、そして友人としてのジョイスがアルフレッドに宛てたもの。だから報告書ではなく、伝えたいことを言葉にしただけだと。
そして、その次に書かれていたのはアルフレッドが気になっていたことだった。但し、そこにはまたジョイスらしい注意書きも添えてあった。これは直接ジョイスがスカーレットからではなく、ハーヴァンからまた聞きしたものだと。だからハーヴァンからジョイスへ話が伝わる段階でそこにはハーヴァンの主観が少なからず入り、同じことがジョイスからアルフレッドへの手紙で起こるだろうと書いてある。そのことを考慮してアルフレッドはこの手紙を読み、曖昧な部分を自分の基準で明確にしないようにと注意してきたのだ。ジョイスは貴族学院でスカーレットの言葉をアルフレッドの考えで勝手に理解した二の舞をするなと間接的に言いたかったのだろう。過去において間違いを犯してしまった時のように。
断り書きや前置きさえ過ぎてしまえば、そこには大切な幼馴染の一人、スカーレットがファルコールでどのような日々を過ごしているかが綴ってあった。但し、そうなるに至った理由がアルフレッドには何よりも重要な部分で、ジョイスがハーヴァンからファルコール到着後教えて貰った内容だ。
スカーレットのファルコールでの日々は過去の自分を無駄にしない為のもの。受けて来た様々な教育をもう国民へは無理だが、領民へ返しているのだということだった。
アルフレッドは嘗て、王子妃になることに執着する浅ましい女だとスカーレットを詰った。しかし、スカーレットが執着したのは王子妃ではなく、民の為に働くことだったのだろう。だから今、ファルコールの民の為、日々努力をしている。
しかも、ファルコールへ向かったのはアルフレッドとシシリアが結ばれることを考え、王都から最も離れたところに引っ込むという気遣いまでしながら。
悔やんでも悔やみきれない、スカーレットと話し合わず自分勝手に全てを決めつけてしまったことがとアルフレッドは思った。ジョイスの冒頭の注意喚起は友人としての戒めでもあったのだ。
『スカーレットは王都から、アルフレッドから逃げたのではない。アルフレッドに訪れるだろうと思っていた未来を考えたから身を引いただけだ』
ジョイスが手紙に書いた文言はそれだけ。しかしアルフレッドはその続きにジョイスが何を書きたかったかを理解してしまった。勝手な想像ではなく、何故か分かってしまったのだ。人は逃げられると追いたくなる、しかし身を引いた者へはそっとしておくことが配慮だとジョイスは言いたいのだと。
更に読み進めると、当時のスカーレットが如何に一人だったか理解した。アルフレッドの行動に阿るという体で、随分と令嬢達はスカーレットを攻撃していたようだ。
『スカーレットを蹴落とせば、自分にチャンスがやって来ると思っていたのだろう。それは、彼女達も分かっていたということだ、子爵令嬢では高位貴族の夫人や令嬢を抑えるは難しいと。だから彼女達は結託して一番厄介な存在のスカーレットを攻撃し続けた』
アルフレッドは何故婚約者であるスカーレットの立場や気持ちを考えることなくあの頃を過ごしてしまったのか、当時の己を呪いたくなったのだった。




