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傷付けた者の隣で、その被害者が共に頭を下げる。これは一体どういうことなのか。薫でなくても皆同じことを口にしただろう。
「どういうこと、ノーマン。何があったのか、説明して」
「違うの、スカーレット。ノーマンは何も悪くない。ただ結果としてそうなってしまっただけで」
サブリナにしては肝心な何が違うかが抜け落ちていた。それでもその熱量の籠った話し方から、薫にもノーマンに悪意はなかったもののサブリナを傷付けてしまったということは伝わってきた。しかも共に頭を下げたくらいだ、傷付けられたサブリナはノーマンを既に許しているのだろう。それでもノーマンはスカーレットに報告しなければならないと考えたから、この場を設けたということだ。
そして二人を見ながら薫は当たりを付けた。サブリナの見える部分に外傷はない。だから、ノーマンが傷付けてしまったのは心なのだろうかと。
「ノーマン、頭を上げて。そしてあなたの口から説明してちょうだい。サビィも安心して、あなたが許しているようだもの、わたしはノーマンの話を聞くだけ。ノーマンもわたしに知らせておかないことには落ち着かないでしょうから」
しかしノーマンからなされた説明に薫が落ち着かなくなってしまった。厳密に言うなら、説明の途中からどうしていいのか、このまま聞き続けていいのか心の中ではあたふたしていたのだが。
端的に言うと二人は愛し合った。お互い大人だ、無理やりでなくそこに合意があれば問題ない。では、傷付けたということはノーマンが一回ぽっきりの遊びだった…ということでもなく…。元人妻だったはずのサブリナが初めてだったのだ。
「スカーレット、あのね、わたしは、その…」
「サブリナ様、わたしからスカーレット様にお伝えします。わたしがサブリナ様の純潔を、貴族のご令嬢の純潔を奪ってしまいました」
「でも、サビィは…」
元人妻と言う前に、薫はサブリナの今までの不妊とモンドとイマージュが見せてくれた夢を思い出した。ジャスティンは破瓜を適当に装い、その後の夫婦生活をもっと適当に偽装していたのだろう。
「わたしも、経験済みだからと思って…それで…。でも、違ったのあんなに痛いなんて思わなくて、あ、ご免なさい、スカーレットに話す内容じゃないけど、それにノーマンも、分かってる、あなたがわたしに痛みを与えようとしたのではないって」
「いえ、痛みを与え、傷付けたのは事実です」
「ノーマンは悪くない。痛かったけど、幸せな痛みだったから。それに、続けて欲しいと言ったのはわたしだもの」
これはどういう報告として捉えればいいのだろう。サブリナはその後のノーマンの気遣いや本当に幸せな愛されるという行為を知ったと切々と語ってくれた。
「サブリナ様が色々おっしゃって下さったとしても、わたしは許されざることをしてしまいました」
「ねえ、ノーマン、じゃあ、教えて。このこと自体を無かったことにあなたはしたいの?だからわたしに報告したの?サビィと愛し合ったのはどうして?」




