表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/673

王都キャストール侯爵家7

自室に戻りダニエルは過去を振り返った。

あの日のアルフレッドとスカーレットの会話が脳裏に蘇る。


『わたくし達の婚姻は国で決められたこと。個人の気持ちを優先させることは出来ません。ですが、カトエーリテ子爵令嬢をお傍に置きたいならば、婚姻とは別の方法を取ることをお考え下さい』

『人の気持ちに方法を取るなどと言うおまえは、本当に人間としての感情がないのだな。しかも自分はあくまでも俺の妻となり、王妃という立場を手に入れたいと主張するとは』


たまたま聞いてしまった二人の会話。あの時はアルフレッドの言葉、加えて様々な噂から本当に人の気持ちを何とも思わない冷たい人間だとスカーレットを見做してしまった。そしてアルフレッドの婚約者、その先の王妃という立場に執着する浅ましい女とも。


ところが先程耳にした騎士達の話によると、スカーレットは婚約破棄など何とも思っていないように過ごしているという。それはアルフレッドそのものにも、地位にも執着していないということだ。それどころか、スカーレットの中ではそのことを既に昇華させ、冗談にしようとしている話まで聞こえた。


アルフレッドが一蹴したスカーレットの提案。あの時あれをアルフレッドが呑んでいれば、シシリアが修道院へ行くことはなかったと今なら分かる。提案をしたこと自体がスカーレットの心だったのだ。別の方法という表現で、シシリアの立場を貶めないようにしながら。


第一、提案通りになっていたら国の為に妃となったスカーレットとアルフレッドに愛されるシシリアという二人の女性が王宮にいたことになる。スカーレットの立場はアルフレッドからの渡りもない政治の為だけのお飾り王妃。端からそれを承知の上、提案していたのだ、スカーレットは。


アルフレッドや周囲の者達が言うように、人の心を持たない冷たい人間がそのような提案をしただろうか。

否、スカーレットこそ持っていたのだ。全てを丸く収める為、自分の心を押し殺せばいいという覚悟を。微かに思い出せるスカーレットの表情から今更感は否めないが、ダニエルにはそう思えてならなかった。


それにダニエルこそ良く知っていたではないか。スカーレットが冷たい人間ではないと。母が亡くなった時、自分も悲しいだろうにダニエルを励まし、前を向けるように導いてくれた優しい姉を。

この一年と少し、ダニエルは一体全体何を見ていたのだろうか。


たった数日しかファルコールの館に滞在していない騎士達の方がスカーレットを理解している。

理由は分からないが、今後三人の騎士達は館に滞在すると聞こえてきた。その内の一人は恋人と共に暮らしたいのでファルコールで部屋を探すつもりだったが、スカーレットからの申し出により最終的に館での滞在に落ち着いたという。


スカーレットは騎士に大切な人と一緒に来てくれと言い、その恋人の新たな生活への配慮もしたそうだ。自分が辛い目にあったのだからと癇癪等起こすことなく、仕舞いには二人が早く結ばれると良いとまで話したらしい。


『ご自身こそ婚約破棄などという憂き目にあったのに、他の者への細やかなご配慮には驚きました。言葉の端々や領民達へ解放している施設からも我々はスカーレット様の優しい上に志が高いお人柄を理解することが出来ました』

図々しいと言われようと、全くその通りだとダニエルは思わずにはいられなかった。

騎士が父へ話した通り、スカーレットは優しく様々なことへ配慮が出来る自慢の姉。それなのにダニエルは何故あの頃スカーレットを性悪女と蔑んでいたのだろう。


それ以外にも気になる話はいくつもあった。特に騎士達が言った、スカーレットの傍で暮らすことが、仕えることに繋がり嬉しいということはどういうことだろう。彼らは隣国の騎士。スカーレットに直接仕えるはずがない。しかし、父もまたキャリントン侯爵家がマーカム子爵をファルコールへ送った以上、騎士達がファルコールの館でスカーレットと共に暮らすことは有り難いと言っていた。


マーカム子爵…

若手の貴族子息達の間では名の知られた人物だ。

本来子爵家を継ぐ予定だった兄を実力で押しのけ、早くに父親から家督を譲られたデズモンド・マーカム。その手腕でキャリントン侯爵の腹心とまで言われるようになった人物。

ただ、多くの若い子息達の間でデズモンドが有名なのはその優れた能力だけではない。皆、違う一面を羨んでいるのだ。


デズモンドは男女の色事に長けている。しかも後腐れなく、女性との関係を終わらせることで特に有名だった。遊ばれると分かっていても女性がデズモンドに惹かれるのは、もしかしたらという希望を持たせることが上手いのかもしれない。それなのに、綺麗に関係を断つとはどんな手法を持っているのか。多くの女性との艶聞を勲章のように思う若い世代にはデズモンドは一種の憧れのような存在なのだ。


キャリントン侯爵がそんなデズモンドをファルコールへ送ったとはどういうことだろうか。そして、騎士達が言った、スカーレットは逃げも隠れもすることなく正面から挨拶へ行くと宣言したとは…。


過去、現在、そして予想される未来、ダニエルは多くのことを調べなくてはいけない。それに、スカーレットに最後に言われたことも真剣に取り組まなければならないだろう。様々な情報を握り、優位な立場を手にする為に。

漸く色々な男性が50話目にして出揃ったような…。恋愛カテゴリー詐欺にならないよう、ぼちぼち話を進めないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ