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会社を三代目社長が潰す、とはよく言ったものだ。四代目を入社させたのだから、せめて継がせられるように経営すべきなのに。
それなのに社長を含め使えない人間が十人以上いる。が、誰も辞めさせられない。なぜってみんな仲良く親族だから。
働かないくせに高給取り。
気付けば、いや、気付かない内に、薫は企画・営業・時折経理と、会社の柱となっていた。それも数年で。
三十才という区切りで会社に見切りをつけようとしたが、それも叶わず。と言うより、学生時代からの付き合いである社長の息子に絆されてしまった。簡単に騙されてしまったのだ。
ヤツは言った、自分の代になったら親族をどんどん排除して健全な経営を目指したいのだと。だからこそ薫の力が必要不可欠。その為にもずっと傍にいて欲しいと言われたのだ。
しかも縋るような声音で、薫に願った。会社での全ての役割、それどころか自分を諭す姉であり、甘えてくれる妹であり、最高のパートナーであって欲しいと。確かにそう言った。そして確かに言っていない。彼女や恋人という言葉は。けれど絆されてしまった。アルコールも手伝ったのかもしれないが、朝が来たときには三十過ぎにして薫は未通女ではなくなった。
最高のパートナーは都合の良い女というルビがふられる。早々に気付いたというのに、流石都合の良い女、そのポジションを八年も死守してしまった。
誰も奪おうとしないポジションなのに死守していたなんて笑える話だ。
その間、なんとヤツは結婚をした。すぐに離婚したが。更にその後、会社に派遣で来ていた子に手を出し、社員にしてしまうという暴挙にもでた。
社内ではその元派遣社員の女性を筆頭に薫の謂れようは散々。ひと昔前に英国に居た鉄の女と呼ばれる政治家に擬え、オリハルコンの処女とかオリハルコンのお局処女と陰口をたたかれた。
何を言われようと薫は黙々と働き、逃した三十歳という区切りを四十歳という区切りで取り返そうと日々を送っていたのだった。
しかし、会社を辞める前に生きることを止めてしまったようだ。死因も何があったのかも思い出せないが。
いいように使われて、働くだけだった毎日。まあ出張は土日の前に組んで日本のあちこちを旅行したことは薫のちょっとした報復だった。
死んだことはもう元には戻らない。けれど、スカーレットに拾われ、スカーレットの肉体に入った薫の魂。お金に困らない裕福な侯爵家の娘で、こんなに心も顔も綺麗な女性になれたのだ、これからの人生を楽しみながらスカーレットの希望を叶えてあげたいと薫は思った。
この世界に来る前は馬車馬のように働かされて、若い子達から散々馬鹿にされて。何より、社会に出てからは薫しかいないと言うヤツに絆され食い物にされた人生だった。
だからこそ、薫はその経験を逆手にとってやっていける気がしたのだ。