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デズモンドの嫌味とも皮肉とも取れる、『金も権力もある公爵家に女受けする顔で生まれてくるのも問題だな』という言葉。
相談するまでデズモンドが信用出来るか否かジョイスは考えていたが、あの言葉を聞いた時にそれはどうでも良くなった。言いたいことを率直に伝えてくれたことが全てに思えたのだ。それに、未来のことは分からないから、過去を振り返り反省会をしてくれたことも気に入った。実例を基に、今後に繋げるくらいしかジョイスとデズモンドの関係においては遣り様がない。
何より『寄り添う』の定義をデズモンドはジョイスに再認識させてくれた。話を聞きながら傍にいるだけでは、考えようによっては付き纏いだ。寄り添うならば、相手を理解し、何を望んでいるか考えなくてはいけない。
やはりうだうだしていないで、デズモンドを訪ねて正解だったとジョイスは思った。
それに…少しだけデズモンドの手を見せてもらえた気がする。ドレスの色すら利用し、デズモンドは女性との距離を縮めてきたに違いない。ラベンダー色のドレスの話は恐らく過去の実例だろう。しかしラベンダー色のドレスを着ている女性全てが、その言葉を受け入れてくれるとは限らない。デズモンドが言うように、その女性を良く見なくては。
ジョイスは過去の夜会での行動に、今更ながら溜息を吐きたくなってしまったのだった。女性に対し会話を広げる努力どころか、話し掛けられても挨拶のみ。早々にその場を立ち去ることばかりに集中していた。
もしもスカーレットがアルフレッドの婚約者になっていなかったら、ジョイスはどうしていたのだろうか。過去の自分を振り返ると、家の力でスカーレットを婚約者にしていた可能性が高い。しかも自分が好きなのだから、スカーレットもジョイスを好きなのが当然だと思っていたことだろう。
貴族学院、そして仮定話の中のジョイスも本当にどうしようもない。その上、スカーレットの傍にいることを許された今のジョイスは会話に面白味がないときている…。
騎士宿舎を出て何度か立ち止まり美しい夜空を眺めては、ジョイスはまた反省を繰り返した。そのお陰だろうか、この日の月明りに照らされる闇に早々に慣れたジョイスの目が、ファルコールの館付近で人影を捉えた。それも二人。
一人は良く知る人物、ケビン。もう一人はフードで顔までは分からないが、騎士宿舎が手前にある立地条件にも拘わらず直接ファルコールの館の敷地に入れるということはキャストール侯爵家の遣いの者だろう。
スカーレットを守る為にジョイスはここにいるというのに、彼等二人の方が遥かにその役割を担っていそうだ。侯爵家からの遣いはジョイスが知らないだけで定期的にやって来ているだろうから。
スカーレットにまともに寄り添えないどころか、守ることに対しても役立たずではジョイスがここに居る意味などない。そう思ったジョイスの足は、自然と二人へ向かっていったのだった。




