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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都キャストール侯爵家6

立ち聞き、それは盗み聞き。

無作法以前に本来ならば許されない行為。しかし、ダニエルの取る行動など父は見越していたのだろう。退席を求めたが、部屋へ戻るようには言わなかったのだから。けれど、優しくはない。父は声のトーンを落として話し始めたようだった。


だから聞き取り辛い部分があるのは当然のこと。集中しても、拾えない言葉があるのはしょうがない。問題なのは言葉を拾えたとしてもその理由や意味が分からないことへ即座に質問出来ないことだ。応接室内の四人にとっては共通認識でも、ダニエルには不明瞭なことが多すぎた。話を理解する為に推測で補完し出来上がったものを完全とするよりは、不明瞭をそのまま捉え調べる、そうするしかない。そしてそれこそが父からの課題に思えた。今のスカーレットからダニエルが見落とし続けたスカーレットの本質を理解する為の。


その一つ目の話がスカーレットの事業。当然のようになされる話から分かるのは、あの人の心を持たない冷たい女だと学院で陰口をたたかれていたスカーレットが始めたのはホテル業。人を迎える事業だった。しかも、侯爵家の力を使って誰かを雇い業務を丸投げしているのではなく、自ら働いているという。事業主の真似事をする為に、誰かを顎で使っているのではないことが窺えた。


更に次の事業も視野に入れ出したという。学院を卒業したばかりの侯爵令嬢スカーレットがだ。ファルコールは国境を越える人の往来は見込めるが、事業を展開するにあたりそこまで旨味がある土地にダニエルには思えない。だというのに、スカーレットはそこに商機を見出している。




「最初のゲストからは想像を遥かに超えた素晴らしいものだったと評価を受けたのだが、親として手放しで喜んでいいのかどうか迷っていた。しかし、今の話を聞くとスカーレットは随分努力をしてその評価を勝ち得たようだ」

「はい、驚きました。ケビン殿から伺ったのですが、内装や新たな施設の工事依頼にも自ら参加し意見を伝えたそうです。工事業者との関係も非常に良く、次に必要となる工事も快く引き受けてもらえるのではないかと話していました。それに自ら館の裏手に広がる山でキノコを採取し、料理の研究をされています。実は滞在中毎日手料理を頂いたのですが、どれもとても旨いものばかりでした」

「乾燥シイタケだったかな、あれは既に最初のゲストから王都での販売権を買いたいと申し出があり驚いている」

「スカーレット様はそれ以外にも、畜産研究所と協力して白いものに覆われたチーズと保存用の肉を作っていました。恐らく、今まで学んだことを実践で試していらっしゃるのでしょう。お持ちのお知恵を隠すこともひけらかすこともなく」

「その姿は楽しそうだったか?」

「はい。特に今後始めたいとおっしゃった医師の補助が出来る人材育成事業をお話しされる際には目が輝いていました」

「ドミニクと共にやって来たその医師見習いという人物はどういう素性の者か聞いてもいいだろうか?」

「ご安心下さい。我が国の公爵家の三男の方で、非常に人望があります」

「…そうか、人物としては良いが、スカーレットの傍にいる男としては些か問題だな。わたしはね、もうスカーレットを政治の駒にされたくはないんだ」

「スコルアンテ様はスカーレット様の前でご自身の家名に関しては何もおっしゃっていません。医師見習いのスコット、と名乗られました。スカーレット様同様、身分に関係なく生きて行きたい方です」

「困ったな、その方が厄介な気がするんだが…。まあ、いい。その時はその時だ」

「そのことですが、厄介とはスカーレット様の伴侶のことですよね?」

「ああ。良い男であればある程、わたしは困る」

「実はドミニク様は我が国の第二王子とスカーレット様を巡り合わせたいとお考えのようです」

「あい分かった、ドミニクには余計なことをしないよう釘を刺そう」


父達の話には時折笑い声が混じっている。それは騎士三人が話す目から、今のスカーレットには悲愴感がないと父が感じ、笑いが出やすい雰囲気となっているからだろう。

どこまで本気の話か分からないが、隣国はスカーレットを第二王子の婚約者と迎えたならば、父にも来てもらいたいようだ。


「では、取り急ぎ息子に爵位を渡さなければ。わたしがそちらへ向かう時はただの老いぼれだが、孫の面倒くらいは見られるだろう。この国の者もスカーレットを大切にしないと水源を持つファルコールが化粧領として持ち去られることに焦りを覚えているようだから、今後どうなるかは分からないが引退するのは悪くない」


最後はやけに聞き取り易い声で父が放った言葉。それはメッセージだと、ダニエルは即座に理解したのだった。

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