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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都オランデール伯爵家34

オランデール伯爵がクリスタルへ修道院での奉仕期間を延ばしたのには勿論理由がある。意味もなく邸から遠ざけたのではない。ほぼ全ての仕事をジャスティンが担い、最後に目を通しサインをするだけになっていた伯爵には今後のことが読み辛いからだ。それだけではない、伯爵は当面夫人が担っていた仕事にも気を使わなければならない。

幸いなことにジャスティンも夫人も邸にいる。二人が本当に仕事をしていたならば、『幸い』だ。何か不明点があれば聞けばいい。しかし、事実は『不』幸い、つまり不幸、違う、二人は『負』、伯爵にとり負の存在になっているのだ。


クリスタルまでもがこれ以上の負の存在になるのを防ぐ為にも、伯爵は修道院滞在延長を決めた。どうせクリスタルには今社交シーズンは難しい。王都にいたのなら最も注目を浴びるはずだったキャストール侯爵令嬢の姿がない理由を辿られれば、クリスタルは真っ先に価値ある令嬢から除外される。これからのことを考えれば、長く思えるくらいの修道院生活が丁度良いだろう。貴族社会へクリスタルがとても反省しているという姿勢を見せることに繋がるはずだ。


それに修道院にいようとクリスタルの金遣いは止まらなかった。仮に社交シーズンだけの滞在なら、クリスタルはその後失った機会を取り戻す為と湯水の様に金を使いどうにかしようとするのは火を見るよりも明らかだ。派手で賑やかなティーパーティを頻繁に開催すれば、口には出さなくても本当に反省していたのかと疑いを持つ者も出てくる。伯爵邸での開催は阻止出来たとしても、外のカフェ等で行い支払いを伯爵家へ回されない為にもクリスタルは修道院へ入れておく方が良いだろう。しかも今回は貴族学院で課題すらまともに行っていなかったことへの罰も込め、クリスタルに小切手帳と現金を持たせることを止めた。本来の慎ましやかな生活を体験し、クリスタルに変化が起きて欲しいという希望を込めて。


さて、問題は邸にいる者…。

伯爵は目の前にいるメイド長をじろりと睨んだ。メイド長と夫人は一蓮托生。夫人が伯爵の許可なく外出や買い物をすれば、メイド長も一緒に実家の侯爵家へ戻される。事実上の『行く当てのない』状態になるだろう。そしてメイド長が仕事の出来ない者になっても、二人は侯爵家へ戻される。


「どうしてこんな算定資料を作りサブリナへ渡していたのだ。これでは、サブリナが間違えるのは当然だと思うが。しかし不思議なことにサブリナは間違えることなく家政を進めていた、何年も。この杜撰な資料と正しい伝票を繋ぐものはどこにあるのだ」

「申し訳ございません。それが、どこにも見当たりませんでした」


急遽、ファルコールへ向かうことになったサブリナ。勿論家政に関わる資料を持ち出すようなことは無かった。だとすれば、メイド長との衝突を避ける為に渡された資料を頭の中で正しいものに変換し、その後のことを進めていたと考えられる。


オランデール伯爵は前リッジウェイ子爵夫妻がやって来た日のことが思い出された。散々サブリナの不出来を罵ったが、二人は粛々とそれを受け入れていた。

もしかしたら二人は何か知っていたのだろうか。しかし、サブリナと夫妻の接触は夜会での挨拶程度。それだけの時間では伯爵が直面している問題を知りようがない。けれど何かが引っ掛かってならないのも事実だった。


本当は色々調べたい。けれど直ぐにやってくるであろう問題をどうにかすることが伯爵には優先事項。

「メイド長、そんな答えは必要ない。おまえがサブリナの代わりに行えばいいだけだ。出来ないのならば、夫人の分と合わせて荷物を纏めろ」

「申し訳ございません。直ぐに、作業に取り掛かります」


メイド長の後ろ姿に、先行きは暗いと伯爵は思わざるを得なかった。


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