王都とある修道院11
「単刀直入に言うわ。サブリナをファルコールから連れてきて。そうすれば、あなたをまた伯爵家で使ってあげてもいいわ、特別に」
直ぐに首を縦に振ると思えたオリアナが、クリスタルの言葉に何の反応も示さない。伯爵家で再び働らかせてもらえること以上の何かを欲しているというのだろうか。泣いて喜んでもいいくらいの条件を提示してあげたというのに無反応とはなんて気に食わない女なのだろうとクリスタルは心の中で毒づいた。
「いいわ、特別にわたくしの侍女にしてあげる。但し表向きよ。もう伯爵家の嫁でないにしても、サブリナをこれからたっぷり働かせるのだもの、世話くらいしてあげないと。あなたにその役割を与えるわ。しかも、わたくしの侍女という肩書で」
そこでクリスタルは最大限の妥協策を考えた。平民出身のオリアナに、本来は手に入れることなど出来ないクリスタルの侍女という肩書を与えることにしたのだ。勿論、肩書だけで実際には違うのだが。
今度こそ、感謝の表情を浮かべオリアナはクリスタルに礼を言うに違いない。ところが、これでもまだオリアナは首を縦に振らない。商人の娘なだけあって、強欲なのだろうか。しかしクリスタルには出せる持ち札がこれ以上はないのだ、スカーレットに少しでも早く惨めな思いをさせる為にもこの機会をものにしなくてはいけない。そう思うと、不思議とオリアナを諭すような優しい声がクリスタルは出せた。
「あなた、サブリナの扱いは慣れているのでしょう?楽な仕事じゃない。ね、伯爵家に戻っていらっしゃい」
「ですが、どのようにサブリナ様をお連れすれば…」
クリスタルには、何がどう作用したのか分からないがオリアナが漸く反応を見せた。
「簡単でしょう。お兄様が必要としているとでも言えば。そして立場は変わるけれど、伯爵家で囲ってもらえると伝えればいいのよ。サブリナなんてどうせ御し易いのだから」
「その、馬車等は…」
「平民のあなたが連れにいくのだもの、乗り合い馬車でいいでしょう。オランデール伯爵家の馬車が離縁したサブリナを迎えに行くのはおかしいし。後はどうすべきか自分で考えなさいな」
クリスタルはあまり多くの指示を与え、費用をどうするのかと尋ねられたくなかった。仮にその話が出たなら、成功報酬だと言うつもりではいたが。けれど商家の娘のオリアナはその辺を確認することはなかった。
「あながたしっかりと仕事をすれば、伯爵家は再びあなたを迎えるわ。お兄様も喜ぶはずよ」
オリアナはクリスタルの最後の一言で、ジャスティンとの関係を全て知っているのだと理解した。伯爵家へ戻るとは、ジャスティンの元を指していたのだと。それだけではない、オリアナがサブリナにどのように接していたかも知っていてこの話をしたのだと思ったのだった。




