王都キャストール侯爵家5
また、恋愛が遠ざかっていて申し訳ございません。これではカテゴリー詐欺のような…
ダニエルのファルコール行きが事実上却下されて数日経ったある日、隣国のケレット辺境伯家の騎士三人がキャストール侯爵家へやって来た。
ケレット辺境伯家は亡き母方の親戚。他国とはいえ領は隣同士、親戚として遊びに来ることはある話だ。しかしながら、スカーレットがアルフレッドの婚約者になってからは、政治的な側面を鑑みて双方共に訪問を見合わせていたのだった。
けれど、スカーレットはもうアルフレッドの婚約者ではない。だから、ケレット辺境伯家の者がキャストール侯爵家にやって来ることに不思議はないのだが、騎士が三人とはおかしな話だとダニエルは思った。立場的に伯父の辺境伯がやって来ることはまずないが、従兄弟達や伯母ならば話は別。そして騎士がやって来るとすればその護衛としてしか考えられない。
しかし父はおかしな訪問者達を出迎えた。彼らがやって来て、キャストール侯爵家に滞在することは既に話が通っていたということだ。
三人は応接室へ通されると、父から道中の町や街道で気付いた点はないかなど治める立場の人間としての質問をいくつも投げかけられた。三人は別の人間。質問は同じでも三者三様に答えは違う。父はどうしてそう思ったのか、何を見てそう思ったのか、時にはその原因はどこにあると思うかなどの質問をしながら話を進めたのだった。
今後の勉強の為にと同席を許されたダニエルは、途中で嫌でも気付くことがいくつもあった。その中でも重要なのは父が決して答えを誘導するような話し方をしないこと。寧ろ、話しやすい環境を作りながら聞き手に徹していることだった。途中で話を遮り、自らが結論を言うのではなく三人それぞれの立場から見えた状況を最後まで自分の言葉で話させたのだった。
それは学院でダニエルがシシリアの気持ちを途中から自分の中で推測し、後付けのように聞きかじっただけの事実と思わしきものを紐付けしたのとは違う。
父は要点を話すよう導きながら情報を得ているのだ。情報は結論ではない。あくまでも、知っておくべきこと。更にそれぞれの情報は、適切な引き出しに仕舞われなければならない。
引き出しもその中身も多い方がいいが、乱雑に管理されれば間違いが起こる。
父は情報を巧みに精査した上で管理し、正しく繋ぎ合わせる。だから、最終判断時に状況や流れを読むことが出来るのだとダニエルは改めて思った。
ダニエルはキャストール侯爵家を継ぐ者として小さい頃から教育を受けてきた。いくら学生とはいえ、スカーレットへの一方的な意見を元にした思い込みは浅はかとしか言いようがない。
父は当時ダニエルに何も言わなかった。状況は知っていただろうに。今、この場に同席させられているのは失敗から学べということなのか、否、そもそもその失敗は許されるものなのだろうか。『武のキャストール家は常に状況を見極める必要がある。その為にも冷静で公平な目を持つように』とダニエルは父に幼い頃から言い続けられてきたというのに。
「到着早々、貴重な意見に感謝する。後は晩餐までゆっくり過ごして欲しい。王宮訪問に関しては任せてくれ」
更に父は格下の者達への配慮、礼儀を忘れることはない。その姿にまたダニエルはスカーレットを見送らなかった自分に失望し後悔したのだった。
「ありがとうございます。実は閣下に伝言を預かっておりまして、改めてお時間をいただけないでしょうか」
父の言葉に席を立つと思われた騎士達だったが、強い意思を宿した瞳で言葉を発した。
「そうか、分かった。ダニエル、ここからはおまえは席を外せ」
「…はい」
ダニエルに父が命じたのは退席。ここから出ていけということだ。しかし、立ち聞きは禁じられていない。無作法なのは重々承知でダニエルは扉近くで聞こえてくる声を拾うことにした。
何故ならケレット辺境伯領からここまでやって来るにはどうしたってファルコールを通過しなければならない。スカーレットがいるファルコールを。伝言を依頼した人物は十中八九スカーレットかその周辺の者と考えられる以上、ダニエルも内容を知っておきたいと思ったのだった。
父のように目や耳になる者を持たないダニエルに出来るのは、自ら可能な限り情報を集めることなのだから。
ご訪問ありがとうございました。カテゴリー詐欺ながら暇つぶしになっていればいいのですが…




