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知っている。過去のジョイスがスカーレットを好きだったことは。イービルが欠席裁判よろしく薫に暴露した。もっと言ってしまうと、スカーレット本人にも漏らしてしまっていた。
でも、ジョイスは『今も』と言った。大好きだったという過去形に対し、『今も』と。英文法の勉強のようだが、その気持ちは過去からの継続なのだろうか。
ジョイスの目の前にいるのはキャロルと名乗るスカーレットだろうが、あの瞬間からスカーレットの中身は薫。スカーレットであってスカーレットではない別人なのだ。謝罪、そしてスカーレットへの気持ちを切に伝えようとするジョイスを、見れば見る程薫はどうしたらいいのか分からなくなった。
「そんなに怪訝な顔をしないでくれ。勢いで伝えてしまったが、本当に俺はスカーレットが好きだった。昔からずっと」
「ずっと?」
「ああ、ずっと。信じられないかもしれないけれど、貴族学院にいる時も好きだった」
「でも…」
「スカーレットがアルフレッドの婚約者になる前から好きだった。けれど、スカーレットを女の子として好きになってはいけないと、二人の婚約が決まった時に両親から言われたんだ。馬鹿な俺は好きにならない為に嫌いになる努力をそれからはしてしまった。友達として、幼馴染として好きでいれば良かったというのに。そして近くで見守り続けていれば…。でも、困ったことに嫌いにならないと、どうしても好きになってしまうと本能で分かっていたんだと思う。貴族学院では君を攻撃する理由が出来て、攻撃することで、嫌いなると同時に嫌われると思っていた。本当に悪いことをして、申し訳なかった」
何て複雑なんだろう。幼い頃からスカーレットを好きだったジョイスに『今』告白されるという行為は。これが『ファルコールでハーヴァンを助けてくれた時から好きになった』だったらどれだけ良かったか。
「ごめん、今のキャロルを困らせるつもりはないんだ。ただ、知っていてもらいたかった。俺が過去から間違えていたってことに。過去の行いを反省し、そのことを謝罪し、そして未来に繋げたいと思っていることを知って欲しい。前も言ったかもしれないが、過去の俺を許さなくていいんだ。でも、これからはスカーレットに寄り添い、守っていきたいと思っている。好きだと伝えてしまった後に言うのもなんだけど、これからに俺の気持ちは関係ないから、気にしないで欲しい。」
そうはおっしゃいましても…、知ってしまったら困るし気にする。
以前サブリナにジョイスかデズモンドと恋をしてみたいと薫は伝えたが、それはこれからという意味。そこに過去は加味していなかった。
ああ、その前に…。この後ハーヴァンも加えてまともに三人で話し合いが出来るのか薫は少し不安になってきてしまった。
「それとこれを受け取って欲しい。これは君への気持ちを込めた贈り物なんだ」
「贈り物?」
「生まれて初めて政治的理由ではなく、贈り物を用意したんだ。開けてもらえると嬉しい」
色で例えるなら、瞳も手伝ってアイスブルーのようだと言われるジョイス。そんなジョイスが照れているのだろう、アイスブルーと対照的な赤を少しだけ頬に浮かべて小さな包みを薫に手渡した。そして中から出て来たのは、ジョイスの瞳の色のようなアイスブルーの石が付いた美しく品のあるペンダントだった。




