265
朝食と昼食の間のまるでお茶を楽しむ時間であるかのように設けられた謝罪の機会。二人きりで話したいといったジョイスの要望に応えるように、その場は応接室となった。しかも喉を潤せるようにと、スカーレットはハーブティまで用意してくれた。
「どう、このミントティ?わたしが育てたミントの葉で出したお茶に少し蜂蜜を入れたものなんだけど」
「ああ、とても口当たりが良い。ありがとう」
ミントティはストレスを和らげる働きや、集中力を高めることが期待出来るとジョイスは聞いたことがある。偶々なのか、だからなのかは分からないが、ジョイスがこれから話す謝罪内容はスカーレットにストレスを与えるもの。そして、ジョイスが話すからスカーレットがストレスを受けるというのに、ストレスを抱えるスカーレットにまたジョイスがストレスを受ける。なんて可笑しなことにだろう。それが分かっていても、この機会を有効なものにする為に、ジョイスは自分の気持ちをスカーレットに伝えなければいけないと思った。
「キャロル、今はスカーレットと呼ばせて欲しい」
「二人きりだもの、ジョイス、わたしもジョイではなく、ジョイスと呼ぶわね」
「ああ、そうしてくれると嬉しい。これは本来の俺達が乗り越えなければならないことだから」
「ええ」
「スカーレット、俺は謝罪を良く理解していなかった。公爵家に生まれ、謝罪に慣れていないというのもあるが、貴族としてどういう場面で使うかという使い道しか考えていなかったのかもしれない。だから正しく謝罪出来なかったら、…ごめん、謝る前から別のことを許してくれと言うなんて」
上手く謝れないことを許して欲しいと先に言うとは、自分は何て愚かなんだとジョイスは思った。それでも目の前のスカーレットは笑うでもなく、呆れるでもなく、ただジョイスを見つめている。それは、ジョイスの言葉を待ってくれているということだ。どんな内容であれ、スカーレットはジョイスの言葉を聞くためにここにいる。
「スカーレット、ごめん。幼い頃から君がどういう人か知っていたのに、肝心な時に寄り添って話を聞かなくて申し訳なかった。言ってしまった言葉は取り消せないし、謝ったところで変わらない。だから考えた。俺が謝れることが何かを。何を謝らなければならないかを。そして行き着いた、俺の過去の態度を謝らなければならないと。態度は反省して謝ることで、これからを変えられる」
「ジョイスはジョイスのままでいいのに」
「それは駄目だ。これからは、君に寄り添い、どんな些細な話にも耳を傾けたい。それが明日の天気の悩みでも、話したいときはいつでも声を掛けてくれ。否、声を掛けて欲しい。本当はそうして欲しかったのに、子供の頃の馬鹿な思い込みで俺は大切な君との対話を過去において全て失ってしまった。本当に大馬鹿だ。ごめん、スカーレット、大好きだったんだ、そして今も大好きだ」
ジョイスは自分の気持ちを告白してしまった瞬間、まだ焦りが落ち着いていなかったことを理解した。
タイトルセンスがないので番号を振っていますが、265は『焦りの告白』でしょうか。




