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楽しい今後のことの話し合いが終わるとトビアスは面白いものを持っているんだと一度部屋に戻った。そして、戻ってくるとその面白いものを薫とサブリナに見せてくれたのだった。
薫には馴染みのあるその背の曲がった赤い物体。しかし初めてみたサブリナは小さな悲鳴を上げてしまった。
これはあれだ。年の離れた弟がいる友人が昔話してくれた小さな男の子が英雄になる為に見せる生き物と同じだろう。特に好きな子には自分の勇敢さを認めてもらう為に、角の大きな昆虫を手に乗せて見せることで却って嫌われてしまうというあれに近いもの。
「キャ、ロルはこれを見ても怖くないのか」
「ええ、だってエビでしょ」
「知ってたのか」
「虫じゃないの?」
「サビィ、これはエビと言って海にいる生き物よ。それを乾燥させたものかしら?」
「その通り。自分の計画が実現したら、山間に住む人達にも乾燥させたものだけれど、海の恵みが届けられるようになる。最近取引を始めたばかりだが、その国にはまだまだ乾燥させた海のものがあるんだ」
何ですと!それは是非取扱商品のサンプルを取り寄せたいところだと薫は思った。干し鮑や干し貝柱、それに昆布があれば最高なのだが。序に干し牡蠣も。でも困った、どれも炊き込みご飯にして食べたくなるものばかり…。
いやいやその前に、いくら海の近くに住んでいたとしても、最初にウニのイガイガを割って食べた人は相当の強者だ。それに海の中でゆらゆら揺れている昆布を採って、乾燥させるという発想に辿り着く人もどれだけいるか。
薫は期待で胸を膨らませる前に、現実を確認しなくてはいけないとトビアスの目をしっかり見据えた。
「トビーは他の乾燥させた海のものを見た?」
「小さな魚と貝を見た」
トビアスが今使っているのはこの国の言葉。だから種類までを言えずに魚と貝という大雑把な言い方なのか、馴染
みがなくてその表現なのかは分からない。小さな魚だって、煮干しとちりめんじゃこでは随分違う。
「どんなやつ?良かったら国に帰ってから見本を送ってもらえないかしら」
百聞は一見に如かず。現物を見せてもらうのが一番確かだと薫は考えた。
「ああ、勿論」
「そうだ、帰る時には森の恵みをお土産に持っていって。ファルコールで採れるキノコ類を乾燥したものなんだけど、とても美味しいから。料理方法を紙に書いたものも渡すわ。トビーが考える輸送業では、そういった乾燥食材はとてもいいと思う。軽くて沢山運べるでしょ。でも、水で戻せば量が増えるわ。ねぇ、このエビ、まだある?少し分けてもらえないかしら。わたしも食べたい」
トビアスがエビを出したのは、ハーヴァンが言った既に出来上がっているキャストール侯爵領とケレット辺境伯領間の輸送体制に世の中にはこんなものもあると風穴を開ける為。少しでもスカーレットに他の食材への興味を持ってもらえれば良いと思たからだ。勿論薫の前世の世界に海老で鯛を釣るという言葉があるなどと知らないトビアスだが、偶然にも乾燥エビで鯛を釣りあげていたのだった。
一度は国へ帰らなくてはいけないトビアス。そして『次』は見本を届けるという理由でまたここにやって来れる。
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一日一話、を目標にもう日記状態ですが、お付き合い下さりありがとうございます。




