王都とある商家2
オランデール伯爵家の執事が去った後もケレスには、オリアナがジャスティンに色目を使い関係を持ったということが信じ難かった。オリアナにはそんなことをする必要もなければ、そんな間違った倫理観を持つ子でもない。だからなのか、ケレスには別の可能性が頭に浮かんだ。
それはオリアナが別の使用人の罪を被せられたのではないかというもの。オランデール伯爵家には下位貴族出身の使用人もいる。その中で平民のサブリナが今は違うとはいえ次期伯爵夫人の侍女だったことを妬んだ誰かに嵌められたのではないかとケレスは考えたのだ。
しかしそれは娘を思うケレスの愚かな願望。オリアナを伯爵家から排除したい貴族令嬢がいたのなら、面倒な罠を仕掛けて嵌めるより、もっと楽で確実な身分という方法を使っただろう。オランデール伯爵家という家門なだけに。それに侍女だったことが気に入らない者は、オリアナがメイドに格下げされた後は寧ろ胸がすく思いがしたはずだ。それこそ、その状況が嫌だったからオリアナはオランデール伯爵家を辞めた。冷静になれば、無理な考えよりもオリアナの言葉の方がしっくりくる。
オリアナが侍女からメイドになったことも、オランデール伯爵家を辞めたことも事実。しかしケレスが知らない隠された事実がそこにはありそうに思えた。そうでなければ、オランデール伯爵家の執事がやって来ることなどなかった。執事の行動は、オリアナに余計なことを話させない為の警告なのかもしれない。それでもケレスはオリアナがどこまで正直に話すか分からないが事実確認をしなければならないと思った。
けれどケレスは商人。言葉よりも確実な事実を先ずは調べることにした。そして向かったのは帳簿保管庫。通常ならば、帳簿を調べたい時は従業員を使う。しかし、これはケレス自身が調べなくてはならないこと。
そしておよそ三年分のサブリナの売掛帳を確認したケレスは近くにいた従業員に『オリアナが遣いで来た時に、同僚の名前を聞いたことがあるか』と尋ねた。
質問された従業員が度々聞いた名前として挙げたのは二人。ケレスにはそれだけで分かってしまった、オリアナはサブリナの予算で自分と数名分の化粧品を定期的に購入していたと。サブリナに似合わない化粧をしていたのは、妬みだけではなく横領する為の工作だった可能性がある。しかも商会を通じて購入したドレス用の生地はどれもサブリナには似合わない色。けれど、定期的に購入されていた化粧品の色とは合う。まるで、サブリナが飽きたドレスを周囲の使用人達が下げ渡されることを待つかのように。
仕える夫人の夫と関係を持ち、夫人の予算までも使い込んでいたということなのだろうか。それでも、執事が置いていった手紙の内容はオリアナには結び付かないし、重すぎる。
執事が最初に渡した手紙にオリアナの報告義務違反により隣国セーレライド侯爵家へ迷惑を掛けたと書いてあった。そしてケレスが親として責任を取ると言った後に置いていかれた手紙には、商会の半年以上の売り上げが飛びそうな額になるであろう取引の一方的解除が記してあったのだ。
相手がいくら貴族とはいえ、こんなことをされてはケレスも本当は黙ってはいられない。しかし、見えてこない事実がケレスの商人としての勘に警鐘を鳴らす。今はいくつでも良いから、オリアナに真実を確認すべきだと。




