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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都とある商家1

オリアナの父、ケレスはオランデール伯爵家の執事からの手紙に目を通すと溜息を吐きたい気持ちを抑えて状況判断に努めた。


事の重大性は伯爵家から執事がやって来たことで分かる。

セーレライド侯爵家は少し前からキャリントン侯爵家に滞在中なのだから、オランデール伯爵家と接触したということに何ら不思議はない。

そしてオリアナが侍女に抜擢され仕えていたサブリナがオランデール伯爵家から去ったのも事実。


しかし、ここに書いてあるオリアナのことは事実だろうか。


「既にオランデール伯爵家では調べがついている。オリアナはサブリナ様への妬みから様々なことを行っていた。服装や化粧を敢えてサブリナ様に似合わないものにするという稚拙な嫌がらせから、コルセットを常時きつく締めあげるという伯爵家にとり許すことのできないことまで。それが何を意味するか分かるだろうな?それに、サブリナ様はオリアナが用意する茶を飲んでいた。だから我々は知りたい、これは家族ぐるみか、それともオリアナが単独で行ったことなのか」


ケレスは商人として、商いを進める上で必要となる多種多様な情報を常に集めている。当然貴族達の情報も。特に取引先の貴族家の情報は重要で、それを知らなければ取引する品物も量も上手く見極めることなど出来ない。その情報は商いに直結するものだけではなく、オランデール伯爵家で言えばサブリナの離縁理由もそれにあたる。迂闊なことを口にして不興を買うなんてことはあってはならないのだ。他家に子供が生まれた、貴族同士の婚約が纏まった等のサブリナの離縁とは直接関係ないことまで、上手く避けていかなければならない。


しかしオリアナが実家に戻ってきたことは、どうにも上手く話が繋がらなかった。本人に聞いても侍女からメイドになってしまい辞めてきたという回答しかなかったのだ。

もっと問い質していれば…。けれど、自分の意思で納得して辞めてきたという娘に『辞めさせられたのだろう』と質問する理由など無かった。しかも目の前の執事がやって来るまで、伯爵家からはオリアナに関するどんな小さな情報も漏れ聞こえては来なかった。それがここに来て伯爵からの手紙に『息子に色目を使い、すり寄り関係を持った』と書いてあるではないか。

情報統制をし、この数日調べつくしたのだろう。


サブリナの侍女だったならば、確かにジャスティンに近付き易かっただろう。そしてメイドになってしまえば、それは容易くなくなる。オリアナが話した内容と、ここに書いてあることは繋がらなくもない。けれどそれならば、オランデール伯爵家は平民のオリアナと伯爵家のジャスティンの関係など端から無かったことにするはず。オリアナもジャスティンについて口を割らなかったのは、とんでもないことを仕出かしておきながら、その重大性だけは心の片隅で理解していたのかもしれない。そうだというのに、わざわざ執事がここを訪問した理由は何だろうかとケレスは疑問に思った。


貴族に盾突くことなど出来ない。けれど落としどころを探らなければ、一方的に立場が悪くなる。それはケレスが守らなければならない多くの従業員がいる商会に悪影響を与えることになってしまう。


だから今は確実に伝えられることを取った。

「家族ぐるみではありません。ですが、娘が掛けたご迷惑はわたしの責任でもあります」

「そうですか。では、こちらをお読み下さい。良かったですね、こちらの商会がオランデール伯爵家を乗っ取ろうとしたという訴訟は起こされないのではないですか?仮に妊娠したと騒げば別でしょうが。まあ、その時は他の貴族家も恐ろしくて近寄らなくなるでしょう」


執事から渡された手紙が、ケレスには鉄の塊よりも重く思えたのだった。


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