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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「何故そんな女性に一国の王子が騙されたのか…。それに他の者はどうであれ、キャ、ロルを一番近くで見ていた人物が」

「これは言い訳になりますが、閉ざされた世界で様々な者の思惑が絡み合い、たった一人を悪役にして消し去ろうとした結果ではないかと思います。スカーレット様の言葉を聞く限り、当然のことしかおっしゃっていませんでしたし。ただ、それを間接的に誰かに話す元カトエーリテ子爵令嬢の見た目が非常に庇護欲を掻き立てられる容姿でしたので、スカーレット様の人物像が非常に冷たく傲慢な女性になってしまったのではないかと思います」

「馬鹿げている」

「けれど、これがこの国の貴族学院で本当に起きたことです。今なら分かります『王族へ易々と近付いてはならない』、『婚約者のいる男性の腕に手を絡めてはならない』、スカーレット様がお伝えになった言葉は全て当たり前のこと。しかし、元カトエーリテ子爵令嬢はそれを簡単に『アルフレッド殿下に近付くことを禁止された、それも冷たく』等と話したのではないかと、わたしが聞き及んでいた内容から想像できます。残念なことに貴族学院内の誰も真実を確かめなかった。そして、馬鹿げたことにわたし達国民は未来の素晴らしい王子妃を失った」


貴族学院という箱庭の中の出来事。スカーレットもそれを理解していたから、箱庭内だけで事を治められるよう努力していた。勿論、キャストール侯爵に介入してもらったなら簡単に全てを解決出来ただろう。しかし、それでは事が大きくなり、アルフレッドとシシリアのことが大々的に世に知られてしまう。スカーレットの立場としては絶対に避けなければならないことだった。それに、キャストール侯爵を頼ることは未来のスカーレットの立場を悪くしただろう。物事を解決するのに父親のキャストール侯爵を使う王子妃だとして。下手をすればキャストール侯爵家の傀儡王子妃と陰で言われかねない。だからスカーレットはぎりぎりまで頑張り続けた。


けれどそれは次代を担う貴族家の子女の前で簡単にはじけた。箱庭内から飛び立つ日にアルフレッドが宣言してしまったのだ。そして一夜の内に全ての貴族家が知る出来事となってしまった。


ハーヴァンが言うように、結果的には国民達へも影響を及ぼしてしまった。王族の慶事で潤うはずだった者達には特に。


「ハーヴァン、殿下の結婚は遅くなったしまったけど、素晴らしい王子妃を失ったとは断言できないわ。まだ、迎えていないのですもの」

「そうですね、あなたの助言のお陰で、作り上げられた張りぼて令嬢は去りましたし」


薫はハーヴァンの辛辣な言葉に若干驚いた。しかしジョイスの輝かしい未来を失わせた人物だとシシリアを捉えればそう言いたくなるのも当然なのだろう。その後のハーヴァンの病気と怪我の二重苦も起きなかったわけだし。


「まるで作り話のような話だ。でも、本当の話なのだから、その時、スカーレット、君は一人で頑張っていたのだろう。偉かったね」


トビアスが言った『偉かったね』。スカーレットには未来の国の為なのだから、当たり前に耐えて、努力してきたことに過ぎない。それを労われ、薫はつい心の中で『良かったね、スカーレット』と思い、涙を流してしまった。


「ありがとう、トビー。一人でもそう言ってくれる人がいれば、わたしは報われるわ」

本当に報われたと感じるのはスカーレット。けれど、もうこの世にいないスカーレットに代わり薫はトビアスに礼を伝えたのだった。


「ごめん、自分が色々聞くから君を泣かせてしまって」

「謝らないで。嬉しくて泣くのは好きだわ。でも、話の続きは少し待って。気持ちを落ち着けるから」


小さく頷き了承を伝えるトビアスを含め、薫に早く先を話すよう促す者など一人もいなかった。寧ろ、そこにいた誰もがそれぞれの感情を落ち着かせる時間が必要だったのだから。


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