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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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キャロルがスカーレットとして過ごした貴族学院での日々。まるで数年を掛けた演劇のようと語ったが、ハーヴァンはその舞台に出演していたもう一人の人物から当時のことを時折耳にしていた。

確かに視点が変わると、見える風景が違ってくる。そして、その視点での話しか聞いていなかったハーヴァンにはそれが全てとなってしまっていた。


言い訳にしか過ぎないが、優秀なジョイスが大きな間違いを犯すとは思っていなかったのだ。しかもハーヴァンがジョイスの従者となってから王宮で見掛けたスカーレットは既に感情が伴わない美しい笑みを浮かべる令嬢になってしまっていた。それが時に年の割には冷静で、恐ろしく思えるほど。


キャロルの言う数年の演劇が一幕目ならば、二幕目は近くで観ていた人間程驚きの連続だったかもしれない。短い幕間に舞台監督、否、脚本家が筋書きを変えたのかと疑いたくなるくらいに。


王子と婚約者の侯爵令嬢から酷く貶められていた子爵令嬢が想いを通じ合わせた第一幕。その最後に、観客は醜悪な侯爵令嬢が排除され胸をなでおろした。この展開ならば、次は身分の低い子爵令嬢をどうやって妃に迎えるのか王子が孤軍奮闘、若しくは新たな登場人物が何かを仕掛けてくることもありだっただろう。しかし、子爵令嬢が妃になるべく裏で助言をしたのは、醜悪な侯爵令嬢。そして、王子と子爵令嬢の邪魔になることを避ける為王都を去った。


ハーヴァンはその頃のジョイスが『自分以外がアルの隣に立つことを見るのが嫌で、スカーレットは王都から逃げたようだ。ずっと王子妃になることに執着していたスカーレットも最後はこんなものなんだな』と言ったことを覚えている。スカーレットのシシリアへの嫌がらせ等を耳にしていたハーヴァンは、あの時確かに思った『良かった』と。しかし、少ししてから事はおかしな方向へ進みだしたのだ。そして面白いもので、おかしな方向が実は真実で、それまでが様々な者の思惑が重なりおかしな状況になっていたと判明したのだった。


詳らかといかないまでも、事実が分かりだした段階でジョイスがいずれアルフレッドの側近でなくなることが決まった。その従者のハーヴァンも、ジョイス同様今までの職を失うことが連鎖的に決定した。側近と従者、立場は違えど仕える者に真実を見極めさせる機会を持たせなかった罪は同じ。だから下された処罰も同じ、去る、だったのだろう。


初めてスカーレットの視点から貴族学院でのことを聞いたハーヴァンは得も言われぬ怒りがこみ上げてきた。『良かった』と思ってしまった自分、偏った見方しかしなかったジョイス、スカーレットを裏切っていたアルフレッド、いくらでも当時の後悔すべきことが思い出される。けれど、あの時はそれまでの話から本当に良かったと思っていた。それに、そんな醜悪なスカーレットならばアルフレッドが心優しいシシリアを選ぶことも当然と。それを裏切りだとはどうしてか思わなかったのだ。


ここにスカーレット以外誰もいなければ、ハーヴァンは恐らく涙をこぼしていたことだろう。話した時間などとは比べ物にならない長い時間を闇の中で過ごしてきたスカーレットを知ってしまったのだから。

でも、分からない。どうしてジョイスの申し出を突っぱねることなく、ハーヴァンを助けたのかが。そして俯きたくなる気持ちを堪えて、再びキャロルの瞳を見た時にハーヴァンは気付いた。理由があるから何かをするのではない、キャロルはただ優しいだけなのだと。


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