王都オランデール伯爵家33
先ずは一つ。要らないモノは排除すればいい。特に簡単に排除できるモノは。問題は次。しかし、使えなければ排除する、その方針に変わりはない。今後のことを思えば、メイドなどという微々たる経費削減ではないモノに手をつけなければならないと伯爵はメイド長を執務室に呼び出した。
「メイド長、おまえには選択肢を用意した。しかも選ぶ権利はおまえにある。あれを連れて、あれの実家に今すぐ帰るか、あれを伯爵夫人のままでここに置いておくかという選択肢だ。ただし、後者を選ぶならメイド長がサブリナ以上の働きができなければならないと、…分かってはいるだろうな?」
伯爵は次に家政を全てサブリナに丸投げしていた夫人を処分することにした。伯爵夫人でいる為の予算は、伯爵夫人としての務めを行うから発生するもの。何もしていないモノに回す予算などない。
「直ぐに侯爵家へ向かうなら、当主へ宛てた手紙をここで書かなければならない。どちらを選ぶか、返事を聞かせてくれ」
既に夫人の実家の侯爵家は代替わりをしている。現在の当主は夫人の兄で、前当主とその夫人である両親は領地で隠居生活を送っている。どちらにしろ、今更夫人に戻られてもいい迷惑だろう。それに夫人の高いプライドが侯爵家の娘が伯爵家から追い出されるということを受け入れられるはずもない。誰よりもそれを良く理解するメイド長の選択など尋ねるまでもないが、本人に選ばせることに意味があると伯爵は再度答えを迫った。更なる条件を付け加えて。
「但し後者を選んだとするならば、六年以内に自分が有用であると証明する必要があるがな。丸々六年ではないにしろ、遊んでいた分はこれからその能力を証明する期間に当てられるということだ。あれも同様だ。置いてやるんだ、無駄な費用はないと思え」
六年間は無給で働けと言われているのだとメイド長は理解した。しかも伯爵夫人には本当に必要なこと以外の予算は割かれないとも。今後はドレスや装飾品の購入を控えさせる為に、夫人はお茶会などの外出すらままならなくなるだろう。そんな条件を突き付けられても、戻ったところで煙たがられる侯爵家よりはここにいるほうがマシだ。メイド長に至っては、夫人が侯爵家に戻された責任を問われその場でオリアナの様にお払い箱になるだけ。
返事は尋ねられるまでもなく決まっている。
「これからしっかり務めさせていただきます」
「そうか。出来の悪いサブリナを指導していたくらいだ、その力をこれからしっかり見せてくれ。サブリナは隣国の言葉に精通していたようだが、メイド長はどこの国の言葉が得意なんだ?」
「それは…」
「歯切れがわるいようだが?まあいい、同じ子爵家出身なのだ、サブリナと同等のことは出来るだろう。ああ、すまない、メイド長を馬鹿にしてしまっただろうか。出来の悪いサブリナと同じであるはずがないというのに。ところでおまえの雇用主は誰だ?」
メイド長はその後、今まで見てきた伯爵夫人、ジャスティン、そしてクリスタルについての情報を雇用主である伯爵に伝えたのだった。




