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ハーヴァンは薫が思っていたよりも早くファルコールにやって来た。それも美しい馬を一頭連れて。
「元気だった、ハーヴァン?」
「はい、お陰様で。これから宜しくお願いします」
「本当に良かったの、ファルコールに来てしまって」
「自分で望んだことです。この国で初めてとなる調教だけではなく、馬を癒す施設まで付いたところで働きたいと思ったので」
「まだ話だけよ。計画書にもなっていないのに」
「だから急いで来たんです。計画書作りも急ぎたいけれど、その時に色々な意見を言いたいと思い」
「ありがとう。歓迎するわ。この子もね」
「この馬は牝馬で、名前はダイヤ。おでこの白い模様を星というのですが、ダイヤには大星があります。形がカードのダイヤそのものだったのでそう名付けられました」
「まあ、なんだか幸運を届けてくれそうな子ね」
「はい、美しさもさることながら縁起も良さそうなのでダイヤを連れてきました。そして繁殖相手は後日ジョイがクラブを連れてきます。我々がこちらでお世話になるにあたって、リプセット公爵が用意してくれた馬です」
お世話というより、ハーヴァンとジョイスは労働力。対価を払うのはキャストール侯爵家だというのに、二人はそれぞれ一頭ずつ馬を持参するとは…。その事実にもリプセット公爵の気前の良さにも薫は驚いてしまった。
しかもダイヤはお金、クラブは知識。そんな名を持つ二頭から無事に仔馬が生まれたら、本当に縁起が良さそうだと思った。
「先ずは馬を休ませてあげて。それからお茶をしましょう」
薫はそういうといつかのようにハーヴァンにハグをした。別れと再開、ハグをする理由としては最高だと思いながら。前世でやってみたかった友人とのハグ。やっぱりハーヴァンはハグをする相手として申し分ない。二度目ということで、腕をしばし放置することなく直ぐに優しく背中に回してくれるところも。
しかし二度目とはいえ、ハーヴァンは前回同様かなり驚き戸惑っていた。これはスカーレットではなくキャロルとしての歓迎方法だと思うことで冷静に対処しようと努め続けてはいたが。問題は前回のように上手く切り上げる理由がないこと。
「キャロル、お茶の準備をしに行きましょう。ハーヴァンの部屋はノーマンが案内してくれるわ。お茶の時に、直ぐに必要で足りないものがあったら教えてちょうだい」
遮ってくれたのはナーサ。ハーヴァンがジョイスの従者だったということが相変わらず気に食わないようで、早くスカーレットとの密着を止めさせたかったのだろう。しかしこのナーサの言動が薫の勘違いをまた助長させていた。キャロルからのハグを早く止めさせようと声を掛けるなんて、ナーサはやっぱりハーヴァンに恋をしているのだと。




