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今までもそれっぽいことを言っていたデズモンド。しかし、自分の感情が理解出来ず、口を突いた言葉こそが本気の表れだと薫は思った。何の装飾をすることなく言い放たれたシンプルな好きこそが。男女の恋愛事、もっと言ってしまうとそれ以上のことにも百戦錬磨という言葉が似合い過ぎるデズモンドが、微かに動揺をみせるとは。
そして慌てるイケメン。薫には何故か見えるはずのない熱に赤い色が付いて首元から空へ向かっていくようだった。
「本当にごめん。今日俺がここに来たのは君の話を聞く為なのに」
デズモンドは衝動に対して謝ったのだろう。突き詰めるとそれは突然の告白という行為へなのか、本気だからか、それとも曖昧だからか。けれど衝動なのだから、計画ではないということは分かる。
デズモンドがファルコールにやって来たのはキャリントン侯爵の計画が故。勿論それは足掛かりで、その先にはスカーレットを王都へ戻さないという役割があった。しかもキャリントン侯爵はデズモンドをただキャストール侯爵領のファルコールへ送るのではなく、国境検問所に置くことで、『入りと出』の情報も得られるようにした。
様子を窺いながら計画を遂行するならば、衝動はあってはならない感情。それが、不意に出てしまうくらい、デズモンドは今、デズモンドとして過ごしているのだろう。
それは何だか嬉しい。薫がデズモンドに出会った最初の日の『このファルコールで本当のあなたを取り戻す手伝いを』に近付いたようで。そして、そのデズモンドが好意を示してくれたことは本人も気恥ずかしいだろうが、実年齢の割には一度もそういう表情で男性からまともな告白を受けたことがない薫にはもっと照れくさいものだ。
けれど薫はここでデズモンドの告白を無かったものとして、話を続けてはいけないと思った。
「あ、その、…好きになってくれてありがとう。今のあなたにそう言ってもらえるのは、とても嬉しい」
そしてもう一つ。それを踏まえた上で言わなければならないことがある。
「でも、まだ曖昧な方がいいと思う。これから話す内容は、わたしの醜い感情についてだから」
昨日の夜散々悩んで、紙にまで書きだしたデズモンドに伝えたい内容。どうすれば上手く伝わるのか考えたが、サブリナの次へのステップを妬むという感情にはどんな理由を付けても無理だった。
最終的には正直にデズモンドへ話すしかないと決めた薫。好きだと言われた直後に気持ちが退かれてしまうのは怖い。だけれども取り繕った自分としてこれからの未来を築けば、その終点は直ぐにやってきてしまう。
「わたし、サビィを応援しておきながら、サビィの行動を妬んだの。羨ましかった。言っていることと、心の中がまるで違うの」
「そんなの誰にでもある感情だろ。それにそうでなければ貴族業はやってられない」
「そうかもしれない。でも、サビィに対しては持ってはいけないものだった」
「じゃあどうして、駄目だと分かっているのにその感情が出てきたのか一緒に考えよう」
「一緒に…」
「ああ、約束しただろ、一緒に解決策を探そうって」




