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ケビンとノーマンの心配が無音のものなら、ナーサはさながら奉仕でそれを表してくれている。
そしてデズモンドは…。色気溢れる心配といったところだろうか。
「ごめん、少しでも早く来たほうがいいと思って。でも、汗臭いのはレディに失礼だからね」
今日はファルコールにしては日中の気温が高めだったので、デズモンドは国境検問所から戻ると軽く温泉で汗を流した上で薫に会いにきたそうだ。そこまではお気遣いありがとうなのだが、その先が…。自分を理解しつくしているからなのか、本当に急いでいただけなのか…。
薫の前で笑みを見せるデズモンドは首元、更には毛先からも色気を滴らせていた。スコットのような開襟シャツに、乾ききっていない、しかもセットされていない髪でやってきたのだ。薫は『いらっしゃい。タオル要る?』と冷静に言えたか心配になる程、その色気に当てられてしまっていた。
「タオルはいいよ。夕方の風が気持ちいいから外で茶を飲ませてもらえれば」
いやいや、それも反則だろうと薫は思った。少し癖のあるデズモンドの髪に夕日が差し、軽く風で揺れたら。それでもデズモンドは心配したからわざわざ仕事後に急いでやって来てくれたのだ、一息つくこともなく。だから、薫はデズモンドのリクエスト通り、外のテラスでお茶をすることにしたのだった。
そして見た目に豪華さはないが、トウモロコシと半熟の黄身の黄色が美しいコーントーストが提供された。
「これは?」
「いつもと趣向を変えてみました。デズにファルコールで採れるトウモロコシを楽しんでもらいたいと思って」
薫はまずは温かい内にコーントーストをデズモンドに食べてもらうことにした。その上で、このコーンペーストが茹でたトウモロコシから作られたことを説明したのだった。
「へえ、粉以外にもこんな風に調理できるのか」
「実は、茹でるだけでも食べれるわ。まあ、栽培している場所でならね。保存や他領へ運ぶなら今まで通り粉がいいと思うけど」
「そうなると今のトウモロコシよりも粒が大きい方がいいかもしれないな。粉にしない分は間引きすればいいかもしれない。少し時期をずらして作っているところで試させてもらえるか聞いてみるよ」
流石キャリントン侯爵領で農業全般を引き受けているデズモンドだと薫は思った。今日のこのコーントーストはペースト状にしているので粒の大きさは関係ないが、茹でて食べるなら小粒よりは大粒がいい。
「やっぱり違う」
「えっ、何が?」
「キャロルの表情だよ。俺が気になった昨日の表情と今とでは。同じ考えるでも、質が違う」
いつも心配する側だった薫。それが、こんな色気が漏れ出るイケメンに真正面から真剣な眼差しで心配されてしまったらひとたまりもない。だから会話の先を読むことなく、兎に角何かを言わなければならないと思ってしまった。
「デズの人を見る力は本当にすごいのね」
「ああ、ずっとそうしてきたからね。でも、キャロルの表情の違いに気付いたのは、今までと違う理由だ。俺、本気でキャロルが好きなんだと…、思う。…ごめん、本気だと言っておきながら曖昧な表現で」




