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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「それでは、安心するために話せる範囲で構いません、内容をお伺いしても?」

「これ、封はしてないの。分かるでしょ、キャストール侯爵家に仕えてくれている人なら誰に読まれてもいいってことだと」

「そのお気持ちは嬉しいのですが、キャストール侯爵家に仕えている者はそんなことを致しません」

「そうね、それにキャストール侯爵家の頂点にいらっしゃるお父様も読まないでしょうね」


薫は範囲も何も全て話せると、手紙の内容をケビンに伝えたのだった。幼馴染として、アルフレッドを気遣うだけの手紙だと。


「婚約破棄を申し渡された直後では、わたしの気持ちに余裕など全く無かった。それはそうよ、一瞬で多くのものを失ってしまった上に今後どうすべきか考えなければならなかったのだもの。でもここで、新たに大切なものを沢山手に入れたら、過去はどうでもよくなってしまった。けれど殿下は違う。欲しかったものを手に入れたと思った殿下は、わたしの一瞬に対してあの直後から今に至るまで、ゆっくり時間を掛けて失い続けているのだと思う。しかも失うと分かっているのに、止めることも出来ずに」

「それが立場のあるお方のツケの清算方法なのではないでしょうか」

「そうね、分かっていても失わなければいけないなんて。この国で誰よりも望んだものを手に入れられそうなのに。皮肉だわ」



スカーレットの言葉こそ皮肉だとケビンは思った。恐らくアルフレッドが国の為に最も傍にいてもらいたいのは、スカーレット。しかし、スカーレットは手紙に婚約者ではなくなってしまったが離れた場所にいようと幼馴染であることに変わりないと書いた。聞く限り確かに幼馴染を気遣った手紙だが、アルフレッドの希望を打ち砕く宣言でもある。


確かに優しくない。けれど、婚約破棄を突き付けた相手を気遣う手紙を出すこと自体がスカーレットの優しさだ。本当に優しくなければ、ケビンに託されたこの手紙は存在しない。


スカーレットは手紙に封などしなくても、こちら側の人間は誰も読もうとしないと言った。しかしあちら側の人間は特別な書簡以外は封がしてあっても堂々と開け、読む権利を有しているとも。それが王宮という場所、そこで暮らすということだと。


この手紙を読み終わった時にアルフレッドはどういう気持ちを抱くのだろうかとケビンは思った。大切なものは失ってから気付くというが、アルフレッドはその時に幸か不幸か別のものを得てしまった。だから失ったことに気付かなかったのだ。


「なるべく早く、そして確実に手元へ届けるよう手配します」

「ありがとう、ケビン」


ケビンは部屋へ戻るとスカーレットから聞き出した内容をメモ書きにし、キャストール侯爵への報告書が入った袋に手紙と共にしまった。ただ、手配するのは今日の夕方以降。今はスカーレットの表情を翳らせた理由がアルフレッドではないと分かったに過ぎないのだから。


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