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アルフレッドがシシリアに惹かれてしまった切っ掛けは何だろうか。
スカーレット寄りではなく客観的に考えれば考える程、薫には疑問が浮かんだ。
先ずは容姿、どう考えてもスカーレットの方が上だ。思いがけずこんな素晴らしい容姿を手に入れてしまった薫は、棚から牡丹餅どころか金塊が手に入ったような気分だった。次に教養。これは貴族学院での理事長達の思惑で捏造されてしまった部分もあるが、王子妃としての資質を考えればやはり軍配はスカーレットに上がる。受けてきた教育の内容がシシリアとは違うのだから。そして、何よりスカーレットの方がアルフレッドと過ごしてきた時間、共に作ってきた思い出も多かった。
それにも関わらず、アルフレッドはシシリアを選んだ。特筆すべき切っ掛けがなければ、一瞬の目移りで終わってしまいそうな気がする。創造主が元にした小説を文字で追えば、その中に答えはあるのだろうが今の薫にそれは出来ない。だから想像する。けれど想像という行為は残酷で、最初に思い浮かべてしまうのは自分の経験値、浮気されることが得意だった薫の考えだった。
それは、アルフレッドは仕事から離れてほっと一息つきたかった、ということ。強ち間違いではないように薫には思えた。最初は案外一息程度だったのかもしれない。その一息の吐き易さに、気付けばその空気を求めるようになってしまったのだ。
浮気の常套句、ちょっとした出来心だったんだ、をアルフレッドの立場から想像すればこんなところだろう。ところが出来心では片付けられなくなってしまった。
スカーレットだって、アルフレッドが王宮では味わうことの出来ない経験をする程度だと最初は考えていた節がある。婚約者以外の女性と挨拶程度以上の交流をするという。謂わば、王子様の束の間の休日だ。ところが、それは休日から日常になろうとした。だから、スカーレットは本来の日常である責務をアルフレッドに思い出させようとしたのかもしれない。
前世の薫もヤツとは仕事の話が多かった。けれどそれには理由がある。ヤツが働かない親族ばかりが蔓延る会社から、早く健全な姿にしていきたいという目標をたびたび薫に話してくれたからだ。だから薫は思った、目標に早く近付けさせてあげられるよう努力しようと。そうすることが薫の価値であり、求めてもらえる理由に繋がっていくと信じたのだ。
負担になってはいけないと、甘えることもなく先を見据えて働く日々。でも、見事にヤツは他の女性達から甘えられてしまった。美しく見えるように努力を惜しまない女性達に…。
アルフレッドのことから、薫は努力の方向性ということにまたもや引きずられてしまっていた。
過去を考えるからこうなってしまう。だったら、今度は今のアルフレッドについて考えてみようと薫は思った。そしてそれは気付けば一通の手紙となっていたのだった。




