王宮では49
ダニエル、事務官、護衛の者達、アルフレッドは敢えて別々にそれぞれの者から報告を受けるようにした。当然のことながらその分より多くの時間を要したが、話に食い違いがないかをどうしても知っておきたかったのだ。
そして得た結論は、それぞれの報告に大きな食い違いはないということ。ダニエルはアルフレッドの指示に基づき行動していた。行き帰りの道中での町の様子調べに、二重国籍証明書と贈り物をスカーレットに手渡すという。しかもそれだけではない、予想通りスカーレットに王都に戻るよう伝えもした。残念ながら事務官はその場に立ち会えなかったので、この報告はダニエルからだけだったが。しかしその場に同席した者達の名を出した時の、特にマーカム子爵と言った時のダニエルの声音や表情から、それも本当のことだと分かるものだった。
貴族学院でのことが明らかになるにつれ、ダニエルの後悔はアルフレッド同様大きくなったことだろう。取り返しがつかないことをしてしまったと。こういうことは、挨拶を交わす程度の者より近親者や婚約者だったアルフレッドのように近しい者の方が己の愚かさを感じ後悔する。そして日々喪失感に支配されるのだ。
それを埋めるには…。
だから、アルフレッドはダニエルの行動が予測出来た。スカーレットとの関係性は違っても、心に開いた穴を埋める方法は同じことしか思い浮かばないと思ったからだ。ただ、アルフレッドには自分の希望を口にすることは許されない。もっと言ってしまうと、希望を口にしたことでこの状況を招いたアルフレッドが、その一番の被害者であるスカーレットに王都へ戻って欲しいなど口が裂けても言えるわけがない。
だからダニエルを利用した。スカーレットがダニエルに会うかどうかは賭け。しかしこの賭けに勝ったなら、ダニエルが言うであろう言葉は確信に近い予想だったからだ。
それにこの賭け自体、イカサマに近いものだった。スカーレットの優しさを知るアルフレッド、それはカードゲームで相手の手札を見ているようなものだろう。
ところが、どこにでも不確定要素は潜んでいる。今回のそれはデズモンド・マーカム。キャリントン侯爵がどうしてマーカム子爵をファルコールに送ったのかは想像が付く。けれど、スカーレットとの関係は想定通りなのだろうか。
アルフレッドがそうであったように、男女間には思いもよらぬことが起こる。マーカム子爵が仕事から本気になることだってあるだろう。
そんなことをアルフレッドが考えていると、ジョイスが執務室に戻ってきた。
ああ、そうか、キャストール侯爵がジョイスを私兵に迎えファルコールへ送るのは、スカーレットを監視するマーカム子爵こそを監視する為かとアルフレッドは理解した。そして、どうせファルコールへ誰か送るならばマーカム子爵以外にして欲しかったとキャリントン侯爵に心の中で恨み言を呟いたのだった。




