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イービルは恐らく当たってしまうであろう予想を立てていた。スカーレットの心は予定の日まで持たないと。いくら既に出来上がっていた一人の悪女を断罪するストーリーを真似たとはいえ、善良なスカーレットにはこの世界は酷く厳しい。


幼少期から共に過ごしてきた婚約者からは、貴族学院に入って少し経った頃から手の平を返したかのような酷い扱いを受け始めた。それまでは二人で国の未来の為に、共に様々な勉強を行ってきたというのに。


当初の予定通り、スカーレットの性格が悪女そのものならば王子がスカーレット以外の様々な女性の姿を目にして嫌悪するのは納得出来る。しかし、スカーレットは悪女とは対極だった。それでも不思議なことに、王子と話す令嬢に嫌がらせをするとか、本当は勉強が出来ないのに金と権力にものを言わせ成績を買っている等という心無い噂が飛び交ったのだ。


噂は、スカーレットさえ婚約者から引きずりおろせば自分にもチャンスが巡ってくるかもしれないという令嬢達だった。イービルがエッセンスを振り撒かなくても、彼女達は次から次へと悪意ある噂を流し続けた、そうすることが当然のように。そう、弱い心が共鳴し合ったのだ。


結果として彼女達の行動は善良なスカーレットを傷付けるだけでなく、悪女へ貶めた。修了パーティでの断罪劇を実現させる準備のように。


せめて二歳年下の弟、ダニエルがスカーレットに寄り添ってくれていたならば。しかし、ダニエルは入学を境に噂に呑まれたのだろうか、スカーレットを嫌いだした。

スカーレットの為人を知る者ですら、皆王子の気持ちを阿る。どんなに足掻いても四面楚歌の状態でスカーレットは日々、己の矜持を信じ過ごしていたのだった。


こんな孤独で間違った世界でも背筋を伸ばし、美しくあろうとするスカーレット。イービルがその姿に惹かれてしまったのはしょうがないことだったのかもしれない。


だからイービルは言ったのだ、その時になったらこんなスカーレットにばかり不当で冷たい世界を捨てて、自分と一緒に来て欲しいと。

「イービル様のお側で過ごすのは吝かではありません。ですが、両親からもらったこの体といつもわたくしを信じているお父様を残すのは…わたくしの姿は亡きお母様の若い頃にとても似ているので」

「じゃあ、その時まで君は君として過ごせばいい。でもね、心が壊れてしまう直前に君はこの体を手放すんだ。いいね。その代わり、君が守りたいものを守るための次の魂を連れて来よう。ただし、その時だ、事前には用意出来ない。いくつかはあるはずだからその中から君が選ぶんだ」



スカーレットの心はイービルの予想を大きく裏切って、創造主が作り上げた最終日の朝を迎えた。作成された部分を過ぎれば、そこからは作られた者達が自然に動き出す。スカーレットもその時点を過ぎれば生きやすくなるはずだった。

しかしパーティ会場で婚約破棄が言い渡されると知っている上で耐えられると言っていたスカーレットの心が、婚約者からの冷たい眼差しをぶつけられた瞬間凍えた。

嫌われている。そんなことは承知していた。心ない言葉もぶつけられる敵意ある冷たい視線も慣れたものだった。なのに、今までにない近距離での視線にスカーレットの心は容易く凍てついたのだ。

その瞬間、イービルは約束通りスカーレットにいくつかの魂を見せて選ばせた。

不思議なことにスカーレットにはガラス玉のような魂がどういう人格を持っていたのか一瞬で見通せた。だから、選んだ。きっとこの大切な体、思い出、父を、愛する領土を守ってくれるだろうと。


「俺がスカーレットでも、この魂を選んだと思う。たまたまとは言え、こんな最適な魂があって良かった。この魂も元の世界では不遇だったから、この世界では恵まれて欲しい」

「わたくしという人物ですが…、そうですね、恵まれて欲しいですね」



薫はイービルが口にしていたその時というのが、自分が死んだ瞬間だったのだと悟った。スカーレットの心が壊れる一歩手前。その時自分は生を手放したのだ。

小さい時に父が亡くなって以降、女手一つで自分を育て上げてくれた母。

母の為にも大学を出て、しっかり働く、それが子供の頃からの目標だった。

目標を達成させるには母子家庭は厳しい。簡単に言えばお金に余裕がない。

だから、どんなに大変でも大学は国立大学。ついでに現役。

周りがアイドルグループに入れ込んだり、恋だとか愛だとかに現を抜かしたりしていても薫は只管勉強に打ち込んだ。

お陰でなんとか家から通える国立大学へ合格できた。


だから次は恋愛、なんてことは勿論ない。空いている時間は生活費の足しにとアルバイト。故に色恋沙汰とは無縁の学生時代。

じゃあその次は?待ち構えていたのは不景気と言う名の就職難。

それでも幸か不幸か同じゼミのちょっと仲の良かった同期の父が営む会社に就職できた。本当に幸か不幸か…

毎月給料が貰えるのは幸運だ。しかし、職場は不運だった。

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