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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都とある修道院8

セーレライド侯爵家の訪問を前にオランデール伯爵家の迎えの者が修道院へやって来たのは、クリスタルがサブリナの手紙を受け取った翌日だった。


「お嬢様、ご準備は大丈夫でしょうか」

「ええ、その籠には刺繍を指したハンカチが入っているわ。大事に取り扱ってね」


刺繍代に仲介料、バザー用の刺繍よりもはずんであげたというのにクリスタルが手にしたハンカチは『それで、これ?』という仕上がりだった。所詮平民の技術にセンスだ、ある程度の妥協は受け入れなければならないと諦めるしかない。けれど、サブリナは違う。子爵家出身とはいえ貴族で、しかも伯爵家に嫁いだ身なのだ、しっかりしてもらわなければ困るとクリスタルは邸に戻ってからのことを考えた。


サブリナをファルコールから連れ戻すには基本に帰るのが一番。クリスタルが行き着いた答えは結局それだった。

社交シーズンにもかかわらず、次期当主で妻帯者のジャスティンが夜会に一人で出席するのはおかしいと訴えようと考えたのだ。父も母も非常に体面を重んじる。最初はクリスタルの貴族学院でのことがありサブリナをファルコールへ送ることにしただろうが、多少の時間が経過したことで二人はまた違う考えを持ったに違いない。王都では実際に社交の日々が進んで行き、ジャスティンは夜会へ一人参加、クリスタルは姿すら現せられなかったのだ。

今ならば、父と母に上手い言葉を掛けられるとクリスタルは馬車寄せへ向かった。


オランデール伯爵家の馬車が見えるとそこにはクリスタルの侍女が控えていた。これがクリスタルの日常。何人かで共用する平民上がりのメイドではなく、下級貴族でそれなりの所作を身に着けた専属侍女に傅かれるのが。


クリスタルがそう思うように、侍女は伯爵家でのことを弁えている。だから彼女も余計なことは口にしなかった。サブリナが離縁されたとは。もしも侍女に普段からクリスタルとサブリナの仲が良さそうに見えていたならば、また結果は違っていたかもしれない。しかしそんなことはないからこそ、馬車の中で侍女がクリスタルに伝えたのは邸に到着してからの予定のみだった。到着後は湯浴みを行い、身支度を整えてから父の執務室へ向かうという。


クリスタルは侍女の言葉を聞きながら、最初に行うことがなにはともあれ湯浴みということに伯爵家らしさを感じた。先ずは、修道院でまとった空気すら洗い流して身なりを整えてからでないと父の執務室に入れないだなんて。本当はジャスティンと話したいことがあるが、オランデール伯爵家の娘としては父への報告義務が先だ。それにジャスティンが邸にいるとも限らない。まあ数日間は伯爵家にいるのだ、状況を確認した上で話を進めていけばいいだろうとクリスタルは思ったのだった。

けれどクリスタルが考えていることが無駄でしかないと分かるまであと少し。そしてそれと同時に、クリスタルがオランデール伯爵家の娘としてはあってはならない取り乱すなどという態度を見せるのも。


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