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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王宮では43

「ダニエルはスカーレットに会えただろうか」

「キャストール侯爵令嬢の性格というか優しさを考えれば、ダニエルは会えているだろう」


スカーレットではなくキャストール侯爵令嬢と呼んだジョイス。敢えて明確な区切りを示すようにしているくせに、性格を良く知る体で話すジョイスにアルフレッドは何とも言えない感情を抱いた。


「そうだな、ジョイスにすら困っているならばと手を差し伸べたスカーレットだ、ダニエルの訪問は受けただろう」


スカーレットとの距離はアルフレッドの方がジョイスよりも遥かに近かった。元ではあるが、婚約者だったのだ。同じ時を過ごし、その中で様々な思い出を作り、時には秘密を共有した。数えきれないほどスカーレットの優しさに接してきたのは、ジョイスではなくアルフレッドだ。しかし、数年前を最後にアルフレッドは優しさだけでなく、全てを拒絶してしまった。それに引き換え、ジョイスはつい最近スカーレットの優しさに触れた、しかもあんなことがあった後で。


思い出は風化する。風化する過程の中で、その時の感情や状況に応じ良くも悪くも作り上げられてしまうのだ。

事実、アルフレッドは今でこそスカーレットとの思い出をまた良いものとして捉えているが、あの当時は違った。どうしてか未来の王妃になる目的の為だけに、スカーレットがこれまで言葉を紡いできたようにしか思えなかったのだ。だから騙され続けていたように思え、全てが悪い思い出と成り果てた。


「もしも、俺がもっと身軽な立場で、ジョイスのようにファルコールで困っていたらスカーレットは助けてくれただろうか」

「困っていれば、誰であろうと助けただろう」


アルフレッドの『ジョイスにすら』に対し、ジョイスは『誰であろうと』と返してきた。それはジョイスがアルフレッドの気持ちを宥める為に言ったのか、それとも本当に自分という存在が多くの中の一人に過ぎないと自嘲気味になっているのか真意は分からない。けれどジョイスもまたアルフレッドと同様、本来のスカーレットがどういう人間か思い出し後悔しているのだろう。


王宮を離れれば、ジョイスが間を置かずにファルコールへ向かうことは分かっている。しかし、それは近い未来で起こる結果。ジョイスはスカーレットの心を守る為にファルコールへ向かうと言ったが、その目的に対しどのような手段を用いるのかは触れていない。アルフレッドは、敢えて今まで尋ねなかったことを急に知りたくなった。


「教えて欲しい、ジョイス、これは友人として。スカーレットとジョイス、両者を知る幼馴染の友人としての質問だ。スカーレットの心を守ると言ったが、どうやって?散々…、俺同様、スカーレットの心を傷付けたというのに、どんな方法で守るというのだ」

「俺は気楽な三男だ。だからキャストール侯爵家の私兵になる。アルは約束の色を使ったリボンを贈ったが、俺は自分の瞳の色のペンダントを渡すつもりだ。心臓に近いところに着けてもらうペンダントを。命を守る目となる為に。先ずは最低限のそんなことくらいしか出来ないだろう。スカーレットの心の状態を知るには時間が掛かるだろうから」


恋人、婚約者、夫。ジョイスからはアルフレッドが聞きたくない言葉は出てこなかった。そうかといって幼馴染や友人として、スカーレットに寄り添うという言葉もない。ジョイスが選んだのはキャストール侯爵家の一家臣になるということ。最低限というには重い覚悟でファルコールへ向かおうとしているのだ。


アルフレッドはジョイスの覚悟をそんな風に理解した。どんなに長い月日を共有し、互いに理解しあっているとしても全てを知ることは難しい。


ジョイスは傷付けた心には、母親からは重いと言われたが自分の心、命を懸けて償おうと考えていた。アルフレッドが聞きたい内容は分かっていたが、それは自由な暮らしを望むスカーレットに不要な言葉。ただ、自由の中でスカーレットがジョイスという存在をどんな形であれ望んでくれる未来であって欲しいと願っていた。

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