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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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スカーレットが望むのはキャロルとしてファルコールで自由に暮らすこと。

今までの経緯を考えると、長い年月を費やしてきたことから解放、逃げ出す、決別、スカーレットとどのようなかかわり方をしたかで人それぞれ表す言葉は異なるだろうが、その状態を経て『自由』になることだ。


今まで籠の鳥、それも羽一本一本まで常に美しく整えられ、堂々とその姿を見せ、美しい声でのみ鳴き、誰もを満足させるように飼われてきたスカーレットが思う自由とは何だろうか。それを近くで目にしてきたデズモンドには案外普通、ただ隣に王子が居ては絶対に不可能なことがスカーレットの欲す『自由』なのではないかと思える。


鳥籠から強制的に追い出されたスカーレット。話を聞く限りでは、最後までその美しい姿のままだったという。取り乱すことなく、アルフレッドから婚約破棄を言い渡されたばかりだとは思えない美しい優雅な所作でその場を後にしたと。


面白いのは、その美しいけれど見せるだけで羽ばたいたことがない翼をこのファルコールで広げようと思ったことだ。何か思うところがあったのだろうが、王都の狭い空を眺めるだけだったスカーレットは遮るものがないこのファルコールの空の下で暮らそうと思った。王都から十分離れたファルコールでなら自由が手に入れられると思ったのだろうか。


それはある意味正しく、ある意味間違い。デズモンドは立場上知っている、王都からの商団の中に今までとは違うものがあると。仕事を遂行する上で過去の流れを学ぶのは重要なこと。だから、気付いてしまったのだ。

恐らくキャストール侯爵もそれは把握している。その上でスカーレットには伏せているのだろう。ケビンとノーマンさえ知っていればいいことだと。


幸いその美しい翼でスカーレットはファルコールの町を飛び回ることはない。造り上騎士宿舎で視界を遮られるファルコールの館の中では惜しむことなく広げているが。そしてプレストン子爵がスカーレットの希望を引き受けてくれるから、美しい翼が起こす優しい風を民も感じることが出来るのだ。


スカーレットはダニエルにプレストン子爵に迷惑が掛かる可能性を伝え養女の話はしないように伝えた。でも違う、それをすることはダニエルが望んだスカーレットの自由な空を奪うことに他ならない。

王都では見せるだけだった翼を広げ、どうやって飛ぶのか披露することに繋がってしまうのだ。これまでの商団が護衛に付けていたキャストール侯爵の私兵ではない、とんでもない高貴な身分の護衛に扮している者達に。


スカーレットには冗談だと思われてしまったが、デズモンドは本気だった。これが一番早くて簡単で確実な方法だ、王族から望まれないようにするには。それも相手が王都で浮名ばかりを流し続けたデズモンドとは。


王都ではあんなに簡単に次から次へと歯の浮くような台詞を口にできたのに、どうして肝心な時に何も出てこないのか。否、肝心な時だからこそ出てこなかった。本当は心の底からスカーレットが欲しい、それが結婚したい理由だ。その副産物として得られるのが、王族や王宮の者達からの諦めだと言いたかった。しかし、いくらデズモンドでも言葉を飾らなくては内容が内容なだけに恥ずかし過ぎる。


言葉を言葉で飾るのは便利なことだ。王都では本音が見えなくなる程飾ってしまえば良かった。特に女性には、見栄えがいい飾りを散々使い笑みと共に贈れば、そこに存在するのは作り上げられたデズモンド像だった。しかし、困ったことにスカーレットにはその飾りも表情も通用しない。スカーレットは全てを取り払ったデズモンドの本質を見ようとする。だからどんなに飾ってもスカーレットが欲しいというデズモンドの本音は見透かされただろう。誤魔化しが効かないから、つい副産物として得られることに乗っかるように求婚してしまった。


サブリナによれば、スカーレットは自由な生活にようやく恋愛というエッセンスを少しずつ加えてみようと思ったばかり。そう、先ずは恋愛であって結婚ではない。

デズモンドは、公開プロポーズは冗談だと思われて今は良かったのかもしれない、そう納得するしかないと自分に言い聞かせたのだった。

デズモンド、本気でした

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