王都キャストール侯爵家21
進み始めた流れを止めるには大きな力が必要。誰もが同じようなことを考える。だからこそ人は権力を持つ者に近付きたいと思い、いっそのことその権力自体を持ちたいと願う。ジャスティンがサブリナとの離縁申請受理を知らされたならば、貴族院内で力を持つ者を探すことなど当然キャストール侯爵は予想していた。だからこそ全ての手続きを前リッジウェイ子爵側に引き受けてもらい、受理という結果だけがジャスティンに伝わるようにした。何故なら、侯爵にはジャスティンが小者特有の耳を持っているように思えたのだ。邸の中で普段とは違う動きがあればその理由を探り、自分への関係有無で事を運ぶという。
「閣下の予想通り過ぎて、面白くもありません。接触する相手まで読んでしまうとは」
「読んだというよりは、消去法だ。おまえ達が集めた情報を元に考えれば、あの男が接触を図るのは自分より爵位が下、年齢も下、更には同じ派閥で取り込みやすい者を狙うだろう。そうと見せかけて、実は全く違うのだったならまだ見どころはあったのかもしれんがな。まあ、今のサブリナの為には分かり易過ぎる男で良かったのかもしれない」
ジャスティンが接触したのは、貴族院内で力があるというよりは書類遂行を管理する者だった。婚姻等の貴族間で交わされる契約を精査し、それぞれを管理する長へ資料と共に提出し、結果をまとめる役割の。
立場上、口が堅く公平な目で物事を見ることが出来る者が選ばれるポジション。本来ならば、何を言っても結果が覆ることなどあり得ない。しかしジャスティンはその公平な目を突いてきたのだった。
ジャスティンがその事務官、子爵家の三男に話した内容はこうだ。自分が関与しないところで、妻との離縁申請がなされてしまった。心から愛する妻を失いたくはないので、一旦受理された書類を止める方法はないかというもの。
事務官の話すジャスティンの様子は、最初のうちは絶望に満ちた悲しそうな男、次第に協力してくれれば感謝の気持ち即ち金をちらつかせ、最後には自分はいずれ伯爵位を継ぐ者だ協力して損はないと圧を掛けてきたそうだ。
貴族院内で誰に接触すればいいか勘を働かせることが出来たジャスティン。そこは百歩譲って褒めてあげよう、しかしそのこと自体を読まれていることも、何故読まれているかも分からないとは不幸なことだと侯爵は思った。
子爵家出身のサブリナをなめていたからこうなるのだ。侯爵と前リッジウェイ子爵が古くからの友人で、そこには爵位、金、力など関係ない確かなものが存在することを知らないから。
サブリナがどうしてスカーレットの話し相手としてファルコールへ向かったのか。もっと『愛する大切なサブリナ』に感心を持っていれば、サブリナの過去、そしてリッジウェイ子爵家のことも知っていたはず。
「馬鹿な男だ。前リッジウェイ子爵、否、バルラトルの心からの友人が不誠実な男から婚約破棄を突き付けられた娘を持つわたしだと知らないなんて」
侯爵へ報告をしていた者はジャスティンにある種の憐れみを感じた。仮令政略結婚でも今は亡き夫人を心から愛し、その夫人の面影を持つスカーレットを慈しむ侯爵を敵に回すとは。侯爵にとりジャスティンの不誠実さは、アルフレッドがシシリア欲しさにスカーレットを排除しようとしたことに繋がる。だからこそ、侯爵はサブリナとの離縁がジャスティンに効果的にダメージを与えるようにするだろう、今のアルフレッドがそうであるように。




