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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「それだよ、今、キャロルは気持ちを揺さぶられている。そして殿下の存在を再び強く感じている。男が女性に形の残る贈り物をする理由の一つだ、自分を思い出させることは。勿論形が残らないものでも、相手に自分の存在を意識させることは出来る。花は枯れた時、菓子は最後の一つを見た時と。タイミング良く次を渡せば、関係の継続性を仄めかせるだろう。でもそのペリドットがあしらわれたリボンはいつか渡すと言われたものでもなければ、継続性を仄めかすものでもない。俺の予想が当たっているなら、殿下からのリボンのプレゼントは途切れていただろうから」


デズモンドの言葉は正しい。男女間のことに長けているからこそ、形が残るものとわざわざ言ったのも理解出来る。それに、貴族学院に入学した翌年以降のスカーレットの誕生日にリボンが贈られることはなかった。デズモンドの言葉を借りるならば、それはアルフレッドがスカーレットとの繋がりの継続を否定したということだ。


愛用すればするほど、刺繍が施されたようなリボンは傷む。愛用するから傷むのだ。黄色のリボンも、黄緑色のリボンも大切にしまうことなくスカーレットは好んで使い続けた。それはまた翌年、贈られると思っていたから。決してそこにあるのは自惚れという感情ではない。約束された未来、必ず自分達は何があっても乗り越え交じり合うと信じていたからだろう。十四の誕生日に贈られた黄緑色のリボンはその力をスカーレットに与えてくれた。


全てが終わった今、どうしてアルフレッドがスカーレットに自分の存在をアピールする必要があるのか。本当に贈られたリボンにはそんな願いという名の力が込められたものなのか。考えたところで、悲しいかな薫は今までの経験でしか男女の関係を捉えることが出来ない。だから思い付いたのは『都合が良い』、『まだ利用出来る』そんなことばかりだった。


「俺が殿下の気持ちを推測するには勿論無理がある。けれどその特注品の夜空の星シリーズは勿忘草の花言葉のようだ。普通コレクションしているものは手元に置いておくだろう、だから『Don’t forget me』、君の傍にいたいと訴えているように俺には思える。でも、それこそ今更だ」


たまたまデズモンドが出した勿忘草という花の名前。薫は青い花びらの中心に対照的な黄色を持つ可憐なその姿を思い出した。そして、もう一つの花言葉も。ペリドットが夫婦愛という石言葉を持つならば、勿忘草には真実の愛という花言葉がある。しかしその言葉がアルフレッドからスカーレットへ向けられることは有り得ない。


「確かペリドットには幸福や希望っていう石言葉があったはずだ。俺にも高貴な方が思うことは分からないけれど、本当にただの贈り物ならばキャロルの幸せを願っているって思うことも出来る。婚約者ではなくなっても二人は長い時間を共有してきた幼馴染なんだから」

リアムは気持ちが深く沈みそうになるスカーレットを気遣ってくれたようだった。


「そうね。受け取ったからにはお礼は書かないといけないわね」

アルフレッドが何を考えて贈り物をダニエルに託したのかは、正直なところ薫には分からない。リアムの楽観的見方はあくまでも希望で、正解からは遠いことは分かっても。ただいくら幼馴染だからといって、受け取った以上何もしないわけにはいかない。だから薫はサブリナを真似ることにした。相手の意図を考えることなく、素直にお礼だけをすればいいと。


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