王都オランデール伯爵家18
「今日参加した茶会でリプセット公爵ご夫妻の話は出なかったか?」
「あなたがそうおっしゃるくらいですもの、勿論話題に上がりましたわ。初のご令孫が、寒くなる前に生まれるからと羊まで購入する勢いだったそうですわ。店では、品質の良い羊毛を生産する羊の種類と腕の良い編み手まで尋ねたそうよ。皆様、ご夫妻のお陰でお祝いに羊毛製品は買い控えるとおっしゃっていましたわ。リプセット公爵夫妻より品質が良いものが手に入っても、品質が劣っていても問題ですもの」
オランデール伯爵夫人は本日他家で催された茶会で出たリプセット公爵夫妻の買い物の話を伯爵へ伝えたのだった。無事に生まれれば公爵家以上に生まれる数年振りの子となる。
「一つ確認したい。サブリナの胎の中に子が入っているということはないのか?」
「残念ながら。閨と体調記録はファルコールへ向かう前日に確認済みです」
「そうか。せめてリプセット公爵家のお子から二、三年以内に生まれれば結婚相手や遊び相手になれる可能性があるやもしれぬが、サブリナでは無理かもしれないな…」
オランデール伯爵夫人であるメリルラーナは元々侯爵家令嬢。出来れば自分の孫には侯爵家以上の者と婚姻を結んでもらいたいというのが本音だ。アルフレッドに伴侶候補すら決まっていない今、その願いを叶えることが出来る最も優良な候補はリプセット公爵家に生まれてくる子。生まれるまでは男児か女児かは分からない。しかし、多くの貴族家は八割方男児が生まれると考えている。何故なら、リプセット公爵家は昔から男児がよく生まれる上に、その代の初孫が女児だったことは一度しかないのだ。
メリルラーナだけではなく、多くの貴族家にとり生まれてくる子の婚約者という座は喉から手が出るほど欲しいものだ。特にリプセット公爵家と繋がりがある家々にはこれから子が多く生まれることだろう。
そしてメリルラーナは考えた、今の状況を。子を産まないが、サブリナは非常に使える。もう五年近くメリルラーナは家政などしていない。全てをサブリナにやらせ最後のサインをするだけだった。
どんなに正確に出来ていることにも、メリルラーナはサブリナに小言を言い続けた。時間などたいして掛かっていなくても遅すぎると詰り、問題ない字にも読み手の為にもっと丁寧に書けと文句を付け続けたのだ。けれどそれは全て大切なサブリナの為。子を産んでいなくても、伯爵家から追い出されないようメリルラーナが助けてあげていたのだ。
しかし…、今ならまだ間に合うかもしれない。
「旦那様、前リッジウェイ子爵夫妻をお招きしてお茶会でもしましょうか?」
メリルラーナは前リッジウェイ子爵夫妻を伯爵家に呼びつけ、少しだけ圧を掛けようと考えた。結果はどう出るか分からないが、上手くいけば新たな嫁を早々に迎えるまで。次は二度目、家政はサブリナのように教育すればいいだけだ。
「そうだなぁ、サブリナがファルコールでしっかりやっているようで、キャストール侯爵家から何の苦情も来ていないと伝えよう」
オランデール伯爵が、前リッジウェイ子爵夫妻にサブリナはそのままファルコールで過ごせばいいと言いたいのだろうとメリルラーナは理解した。ジャスティンはごねるだろうが、サブリナよりは次代の為の子が必要。
「早い方がいいですわね」
「ああ。伯爵家に招待されるのは子爵家にとっては光栄なことだ。多少の予定は調整するだろう」
前リッジウェイ子爵夫妻にとって最優先事項となる茶会への招待日はその翌々日という非常識なものだった。




