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テーブルの上にあるだけで、その存在を主張する荷物。ラッピングもリボンも送り主のクリスタルを表すかのようだった。
「この荷物はサビィへの贈り物よね、リボンも含めて。でも、心なしかこのリボン、クリスタル様を彷彿とさせるわ。部屋に届けるよりはここで開けてもらった方がいいかもしれない。ナーサ、サビィとツェルカを呼んできてくれる?」
薫の感覚では贈り物は相手のことを考えて行うこと。会社間の付き合いでのお中元に、人数の多い事業所へは入り数の多い缶ジュース。お歳暮は温かい飲み物に合いそうなお茶菓子等と。それに男女比も考えてお菓子も選んでいた。社内で流石お節介おばさんと言われようと、相手に喜ばれることを重視していた。
しかし目の前にあるサブリナへの贈り物であろう荷物はどうだろうか。見た目だけで判断してはいけないが、そこにクリスタルの心遣いではなく何かの意図を感じてしまうのは何故だろう。
別の見方をすれば、プライドの高いクリスタルだから包みもこうなったと考えられる。もしかしたら中身にはちゃんとサブリナへの気遣いが入っている可能性も。けれど頭の中の記憶が薫に警鐘を鳴らす以上、気を付けた方がいいだろう。
待つこと数分、ナーサがサブリナとツェルカを連れてきた。そしてサブリナはその荷物を目にするや否や大きく息を吐き出したのだった。
その仕草が意味することなど考える必要はないだろう。サブリナは贈り物に喜んでいない、中にクリスタルの気遣いなど入っていないということだ。
思い起こしてみれば、サブリナは自分の荷物だけでやって来た。暫しの別れを惜しむはずの夫であるジャスティンからの贈り物など持ってもいなかった。勿論義妹のクリスタルも、ジャスティン同様大切なサブリナと言っている義母からも。
今回サブリナがファルコールへやって来たのはスカーレットの話し相手として。その原因を作ったのはクリスタルだというのに、オランデール伯爵家の誰も遠く離れるサブリナへの気遣いの品も手紙も渡していない。
そしてこのタイミングでクリスタルからの贈り物。薫は自分の勘に従って良かったと思った。贈り物をするならばクリスタルこそサブリナの出発前に用意し馬車に乗せるべき人だったのだ。
「サビィ、良ければここでオランデール伯爵令嬢からの贈り物を開けてくれないかしら?わたしも一緒に中身を見たいの」
「勿論構わないわ」
「それと…、このリボン、あなたの好み?」
「勿論。流石ねキャロル、もう頭の中で全てが繋がっているのかしら?」
「あなたこそ開けなくても中身が分かっているのでは?」
「何が入っているかまでは確実に分かるわけではないけれど、お願いという命令が入っていることは分かるわ。だってそれはリボンではなく、わたしを飼っているとでも主張する首輪のようなものだから」
サブリナがジャスティンとの婚姻関係を続けるならば、このクリスタルからの贈り物にも喜ばなければいけなかったのだろう。どんな贈り物だとしても。
でも今のサブリナは違う。リボンを解くと『捨てるには忍びないわね、売ってしまいましょう。お金にくらいなってもらわないと』と笑みを見せたのだった。
「そうだ、リボンは不要な髪型にしたいわ。もう既婚女性として髪を結い上げる必要が無くなるのだから、短くしてしまおうかしら」
サブリナがショートカット。薫は妖精のような女優が出ていたあの有名映画を思い出さずにはいられなかった。しかも目の前で笑みを見せるサブリナの髪質ならばあの前髪を自然につくることが出来るはずと。
「いいわ、サビィ!きっと似合う!早速、あ、でも、その前に包みを開いてしまいましょう」
「ふふ、そうね。そうだ、中に何が入っているか当て合わない?」




