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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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「ねえ、ナーサ、今日の担当のウォルターさん、素敵な人じゃなかった?」

「あら、キャロルさんの好みの方でした?」

「格好いいとは思うけど、好みと聞かれれば違うわね」

「わたしも同じです。毎回言いますけど、わたしは誰かと恋をする為にここにいるのではありません!」

「でも、恋は楽しいそうよ」

「キャロルさんこそどうなんですか?誰か気になる人は出来ました?」

「う~ん、そうねえ。格好いい人が回りに沢山いるとは思うけど、気になるかと言われれば違うのよねぇ」

「侍女仲間が話していましたけど、恋はするものではなく、気が付いたらしているんだとか」

「何それ、詩的ね、随分と。きっと、恋をするとそういう思考にもなるのね」

「ということは、キャロルさんもわたしもまだ恋をしていないということです。全然詩的なことはありませんから」

「そうねぇ、残念」


今日もまたナーサの結婚への道は空振り。なかなか良い雰囲気の男性だと思ったけれど、こればかりは個人の感情の問題だからどうしようもない。

薫はナーサからのマッサージを受けながら、今後もしもナーサが少しでも気になる人が現れたら全力でサポートしようと心に決めながらうとうとしていた。



薫がナーサの結婚へお節介を焼いている頃、帰路に就き途中の景色が良いところでランチボックスを開いた前レヴァリアルド伯爵夫妻はファルコールでのことを振り返っていた。


正直に言えば、ファルコールでの毎日はやって来る前の想像とまるで違っていた。侯爵令嬢のお遊び程度のホテル運営に付き合ってみるか程度で来ていたのだから当然と言えば当然の結果なのだが。


「この乾燥シイタケを持たせるあたり、しっかりしているな。王都には無いものな上、運び易い軽さだ」

「ええ、彼女、あなたに孫を連れて来てはどうかと言っていたけれど、これから先のことを匂わせたのかしら?今後商売をしないかと」

「かも知れんな。何を言っても笑顔で答えるだけ、まあ、王宮での教育の賜物かもしれんが、本音は見せないということだろう」

「そうね」


薫にしてみればホテルの従業員と客ということで、笑顔で接客をしていたに過ぎないが貴族社会でずっと暮らしてきた前レヴァリアルド伯爵夫妻は勝手に色々と深読みをしてくれていた。


「乾燥キノコの種類も増やすようなことを言っていたな」

「ええ、我が家としては、出資しているレストラン事業にプラスになりそうな話ね。乾燥キノコだけではなく、乳製品や加工肉も」

「そうだな。帰ったら息子達に伝えよう」

「でも、本当に惜しいことをしたわね、殿下は」

「ああ、再婚約は難しいだろう。違約金の三倍だからな、再婚約を申し出る為に必要な金は」

「不思議なことを取り決めると思っていたけど、こういうことだったのね。侯爵は大切な娘の結婚を二度と政治的に利用されないよう守ったのだわ」

「だからって、女官とは」

「残念ね、貴族学院の式典で婚約破棄を言い渡されたキャストール侯爵令嬢は心の病のせいで外にも出れない状況なんて。王都に到着するまで、頑張っておしゃべりしなくては」

「そのおしゃべりには儂も付き合うか。しかし、このサンドイッチの具材は本当にいい味だ。王都まで持って帰って家族に食べさせられないのが残念なくらい」

「ええ、本当に。彼女、どうしてこんな料理を知っているのかしら?よっぽど色々な本に目を通していたのね。特にこの卵をからめているソースはいい味ね」


レヴァリアルド伯爵領のことや家族構成は、スカーレットの記憶から薫もだいたい把握していた。最近では飲食業に投資を始めたことも。


しかしそのスタンスはあくまでも投資。スカーレットが持っていた情報もそこまでだ。本格的に投資先を買い取り、これから大きな事業にしようとしているとまでは流石に知らなかった。けれど前レヴァリアルド伯爵夫妻はここでも勝手に勘違いしてくれたのだ。キャストール侯爵家のお嬢様は王都から離れても独自の情報網で様々なことを把握していると。


薫が夫人に卵サンドを持たせた理由は簡単。夫人がオムレツの味とパンを褒めてくれたからだ。そこから薫も勝手に夫人が薫同様卵好きだと考え、卵サンドを用意したに過ぎない。


「ねえ、あなた、乾燥キノコ類も購入したいけれど、このお菓子の販売権も欲しいと思わない?」

「実は儂も同じことを考えていた。どうやら早々にまたファルコールのあの館を予約したほうが良さそうだな」


夫妻がそんな結論に行き着いた頃、薫はナーサの素晴らしい技術によって完全に寝落ちしたのだった。


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