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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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映像から見て取れる会話時間となっちゃんの説明。プロならば『ちょっと』よりは長めの時間だと分かったことだろう。そしてなっちゃんも後で気付いたようだが、何もエレベーターの話をしたと言う必要はなかった。刑事からの実況見分というのは知らず知らずのうちにプレッシャーを感じるようだ、真実に近いことを話さなければいけないと。


そして端折り過ぎとはいえ、事実を話したことは正解だった。映像にはその後なっちゃんが同僚と楽しそうに話している様子も映っていたのだから。当然彼女もまた刑事から質問を受け『エレベーターのことで何か話したみたいです』となっちゃんを庇いつつ自分は関係ないという姿勢を出していた。


元の世界と今薫がいるこの世界。時間の流れ方が違うのか、モンドとイマージュの力なのかは分からないが夢の中では時間がどんどん流れていく。


この事故は何らかの理由で階段を利用した薫が、なっちゃんがたまたま開けた扉で転落し死亡という記録で幕を引いた。そして報告にやって来た見るからに昭和生まれの落ち着いたベテラン刑事がなっちゃんに最後に言ったのだ

『悪口、意地悪、悪戯、どれも悪が含まれるこれらのことが時に人を死に至らしめることがあると覚えておくといいでしょう。悪口で心を病んで命を落とす人もいる』、と。

この言葉が意味することは、なっちゃんの嫌がらせを知っているということ。短期間会社で聞き込みをした刑事が見通せてしまうことだ、社内の人間ならばもっと深い部分にある感情までも理解してしまったことだろう。なっちゃんは依願退職をした。表向きは悲しい事故に立ち会ってしまった会社にはいられないと。

そして、あの男はなっちゃんの勤続年数以上に退職金を支給した。名目上は見舞金を加算して。でもそれは手切れ金でもあった。その後二人は互いの連絡先を消去しあい、別れたのだ。


自らが抱いた意地悪心で薫が死に、心に傷を負ったなっちゃん。けれどあの男とのことがなければ、こんなことにはならなかった。あの男が悪いのかなっちゃんが悪いのか、それとも二人の心が弱かったのか。薫には分からないが、二人の未来が薫の死によって大きく変わったことは確かだろう。

この出来事が二時間の刑事ドラマスペシャルならば、差し詰めあの刑事が放った言葉と共にエンドロールが流れてドラマは終わるが二人の未来はこれからも続くのだから。


そしてどうでもいいことだが、なっちゃんの退社後更に二人の女子社員も退職した。二人共なっちゃんと仲が良かった分居辛かったようだ。会社はというと、四人の社員を失くしたからといって閉じることなどない。本来はそういう時こそしっかり業務を行うものだが、なんとしでかしてしまった。支払い期限を守り忘れたのだ。金の遣り取りのお約束はとっても重要。一回目は色々あったからと相手側も多めに見てくれたが、続いてしまっては信用を失うだけ。


場面は変わって数年後。一階の駐車場に高級車は無かった。六階の役員室も無くなっていた。そしてヤツがてきぱき働いていた。その様子に薫は『やれば出来るじゃん』と思うと共に自分が存在した時間も無駄ではなかったように思えたのだった。更になっちゃんは沖縄とは反対側の東北にある温泉宿で住み込みの仲居さんになっていた。


『福留さん、それ重いからわたしがやりますよ』

『ありがとう、夏美ちゃん。こんなおばさんの世話ばっかり焼いてないで、若手の男性陣と仲良くすればいいのに、あなたってば』

『いえ、仕事を教えてもらった皆さんの役に立つ方が重要ですから』


なっちゃんのその姿に薫は出来ることならば伝えたいと思った。『わたしは十八に戻ってこれから恋をすることを選んだ』と。お節介かもしれないが、なっちゃんにも再び恋をしてもらいたいと思ったのだった。


さて、次は誰の話を進めようか…

ずるずる長い話にお付き合い下さりありがとうございます。

ダニエルも来るし、クリスタルが手配したものも到着しそうだし…

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