表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/673

189

そういうことだったのかと薫は全てに合点が行った。

あの日二階で最高の笑みを見せてくれたなっちゃん。その後六階の外付け非常階段の前で今度は別の笑みで薫を迎えようとしてくれていたのだ。骨折り損のくたびれ儲けを労う為に。


しかしそれは実現しなかった。非常階段にある非常扉はだいたい外開き。内側に扉を引くより外側に押すほうが逃げやすいからかどうかは知らないが。そしてこのことが薫にとって最悪の結果をもたらした。


高めのヒールは非常階段にカツーンカツーンという音を響かせると同時に、薫が六階に近付いているのを待ち構えるなっちゃんに教えてくれた。

なっちゃんは待ちきれなかったのだろう、薫が扉を開くまで。どうせなら出迎えたいと外開きの扉を勢いよく開いてしまったのだ。そして、あまりにもタイミング良くそこに薫がいてしまった。配布用資料にPCを抱えて。

驚き、寝不足、不安定な足元。薫が後ろにひっくり返るどころか、そのまま階段を落下するのは当然のことだった。


死後、自分の死因やそうなってしまった理由を知ることが『お祝い?』なのかは分からない。けれど、何があったのかとモヤモヤするよりは知っていた方がすっきりする。その観点で言えば、これは一種のお祝いなのだろう。特にモンドとイマージュに出来ることといったらこの手のことなのだから。


何があって今に辿り着いたのか。漸く分かったところで夢が終わるのだと思った薫だったが、直ぐに覚めることはなかった。


続きがあったのだ。

薫の悲鳴になっちゃんの驚きの叫び。六階の会議室でお茶を飲む役員達はどうしたのかとなっちゃんの傍にやって来た。その中にはあの男、勇大も。そして、階段から落ちた薫に気付くと『救急車を呼べ』と叫んだ。更に階段を駆け下りスーツに血が付くことも気にせず薫を抱き寄せ、何度も薫の名を呼び続けているではないか。きっと分かっていたのだろう、薫が息を吹き返すことはないと。だから、目に涙を浮かべているのだ。


そう言えばサブリナが『知るチャンス』と言っていた。この夢は薫の死後のあの男を知るチャンスなのかもしれない。本当に今更だけれど。

社内では二人しかいない場所でも大神さんと呼んでいたあの男が人目を憚らず『薫』と叫び、なっちゃんに目もくれないとは。その様子に愛はあったと思ってしまう薫も大概だが、知れて良かった。小説ならばここで終わり、だから夢もここまで。ところがモンドとイマージュのお祝いはまだ続いたのだった。


死亡事故が起きれば、警察の実況見分がある。そして、こんな古い自社ビル、しかも大したものはないけれど、経理のある二階と役員達がいる六階には監視カメラが取り付けてあったのだ。それも、外部侵入対策として非常扉付近に。


偶然にも薫が最後に言葉を交わしたのがなっちゃん。そして、薫が息を引き取る時にも傍にいたのはなっちゃんだった。監視カメラは映像だけで音声はない。当然警察官は実況見分の時に何を話していたのかなっちゃんに質問した。


エレベーターの調子は悪くなかった。悪かったのは虫の居所。だからちょっと薫に意地悪をすることでなっちゃんは憂さ晴らしをしたかったのだ。でもなっちゃんはそうとは言えなかった。代わりに『エレベーターのことでちょっと大神さんと話をしました』と言っただけ。それは嘘ではないが、事実を端折り過ぎたものだった。相手はその手のプロだというのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ