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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王宮では36

ジョイスが過ごす世界、ジョイスが見える範囲の世界、そしてそれ以外。日々暮らすだけの小さな世界の中でさえも多くの人がいる。そして、全員がそれぞれ握る情報量は違う。しかし間違いなく言えることがある。アルフレッドも公爵夫人の母同様、多くの情報網を持っているということ。

問題はその情報網。正確性に欠くものや、個人の思惑が入り過ぎるものは危険なだけ。だから、アルフレッドはやってきた情報を精査する能力が求められる。そしてジョイスとてアルフレッドの情報網の一つに過ぎない。


目の前でジョイスにファルコール行きを尋ねたアルフレッド。しかしこれはファルコールへ行くのか否かを質問したのではない。決定事項に対し、出発する時期を尋ねたものだ。


どこまでを既に知っているのか?


スカーレットの情報はキャストール侯爵によって守られている。けれどそれもあと少し。今はまだ婚約破棄が尾を引いていて、アルフレッドが表立ってスカーレットの情報を探ることは難しい。けれどもう三月もすれば…。否、その前に様々なことが明らかになってくるだろう。

だからこそキャストール侯爵とスカーレットは二重国籍という制度を作り取得した。ダニエルには一切知らせることなく。今は表立ってアルフレッドがスカーレットを調べ辛いことを逆手に取って。


さて、どう答えるべきか。アルフレッドの手の内のジョイスとして。側近の内はもう間違えることは出来ないジョイスならば。


「ああ、そのつもりだ。しかし、テレンスのことも気になる。同じ側近という立場ではなく幼馴染として」

「幼馴染か…。俺もその一人だと思うのだが」

「勿論、大切な幼馴染だ。だけどファルコールにいる幼馴染は違う。大切なたった一人の愛しい幼馴染なんだ。俺が傷付けて、追いやってしまった。だからここでの仕事が終わったら彼女の心をこれからずっと守る為に、直ぐに出発する」

「…そうか」

「それと、以前ハーヴァンを助けてくれ、俺に馬を手配してくれたのはスカーレットなんだ」

「なんとなくそうじゃないかと思っていた」

「スカーレットは新たな人生をファルコールで歩み始めた。だからダニエルが戻ってきたらあまり深く聞いてやるな」

「それは難しい。ジョイスはもうこの王宮の住人ではなくなるが、ダニエルは違う」

「じゃあ、深く聞いてもいいが、質問の内容は易しくしてやれ」

「…これは独り言だ。幼馴染が近くにまだいてくれて気が緩んでいる俺の。本当は、疲れた。公爵家から養子を取って、俺は王子のまま終わりたい」

「何の為にスカーレットが努力し続け、あの状況を耐えていたか考えろ」

「分からないんだ、どうしてあの頃あんなにシシリアに入れ込んだのか。熱病に罹り頭がどうかしていたのかと思える。ピークが過ぎ冷静になった今、スカーレットが欲しい。未来を考えたら王宮の誰もが、違約金の三倍なんて馬鹿げた金額だとは思わないさ。俺は今どうしてこうしているのか夜な夜な自問自答しているよ」


本当に欲しければ手に入れられる立場にあるアルフレッド。それにジョイスがスカーレットを好きだったことをアルフレッドは知っていたはず。それなのに、ジョイスではなくテレンスを末姫の婿候補に選んだ。二重国籍だって、最短で発行出来るよう力を尽くした。欲しいのに欲してはいけないと自戒するように。


ジョイスは目の前のアルフレッドもまた様々な感情に苛まれながら、二度とはき違えることの出来ない責任と向き合っているのだと感じたのだった。


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