王宮では34
二者択一。
二つしかないものの内、一つを選べばいいだけのこと。それも選んだからといって、今後ジョイスにそれが降りかかってくることはない。もっと言ってしまうと、母からは一つだけをアルフレッドに伝えればいいと言われたが、それを守る必要もないことだ。ゼロから三まで、選択の決定権はジョイスにある。
しかし、母が言ったようにアルフレッドには敢えて一つ伝えるべきだ。そこから様々な可能性を考え探る為に。
知らなかったという状態に陥ったのはアルフレッドの罪、婚約者との対話を怠ってしまったという、否、蔑ろにしたという。そしてあの宝飾店の『夜空の星シリーズ』をスカーレットが集めているという事実を知っていたのに、その理由までを知ろうとしなかった罪でもある。上辺の事実だけではなく、『何故』を掘り下げるべきだった。アルフレッドがスカーレットの為人を理解していれば辿り着けただろうに。
だからこそ、母が言ったように一つだけをジョイスはアルフレッドに伝えるべきなのだ。
ジョイスもこれからに向け、スカーレットがファルコールへ向かったという事実をしっかりと見なくてはならない。理由を掘り下げれば様々なことが見えてくるはずだ。
ホテルの運営を始めたことだって、理由なくして始めたことではないだろう。母からの情報によると、既に一組目のゲスト、前レヴァリアルド伯爵夫妻は次の滞在を予約したそうだ。しかも、ファルコールから戻って直ぐに。この事実により、秋以降の予約にキャストール侯爵へどうにか宿泊出来ないか頼み込んでいる貴族もいるという。
キャストール侯爵もまたスカーレットの父だけに、バランス感覚に優れているのだろう。ゲストの選び方が見事だ。伯爵家、子爵家と爵位が高くなくとも宿泊出来ると示した上に、両家ともキャストール侯爵個人の友人。キャストール侯爵家に名を連ねているからという理由ではないと明確に意思表示をしている。
それもそうだろう、貴族学院では名を連ねている貴族家の子女もスカーレットを攻撃したのだ。
父がファルコールの館へ滞在する為の紹介を得られれば、それはそれでまた何かの足掛かりとして母は利用するだろう。その前にその紹介がなされること自体父とキャストール侯爵が何か結託することなのかもしれない。
どんなことでも、裏を読んでいかなくては。特に国にとって力持つ人物達が動く時は。
(アル、だから考えてくれ…)
「少しいいか?」
「ああ」
「もう少しすると、王家管轄修道院でバザーがある」
「そうだな。一度は顔を出すつもりだ」
「毎回、主幹を務める貴族家は王家への絶好のアピール機会にもかかわらず、本来の運営に力を入れるだけに留まっていた理由を知っていたか?」
「慈善事業の意味をはき違える馬鹿はいないだろう」
「それでもだ」
ジョイスは母から聞いた主幹貴族と協力貴族の組み合わせ方法をアルフレッドに伝えたのだった。そして、それを裏でスカーレットが手引きしていたと。
「最初の数回で上手く基本方針が伝われば、後はご夫人方でそれを応用していくだけ」
「スカーレットはそんなことは一度も…」
「アルが世を治めやすければ、キャストール侯爵令嬢はそれで良かったんじゃないかと、俺は思う」
アルフレッドの綺麗な深い緑の瞳が揺れる。それを見つめながら、これは黄緑ではないとジョイスは思った。光がどう当たろうとも黄緑にはならないと。
では、何故黄緑なのか。知るべきだ。スカーレットがアルフレッドだけに好きな色を話したという事実を知ってしまおうとも。
自然を装うよう細心の注意を払いながら、ジョイスは尋ねた。
「キャストール侯爵令嬢と言えば、どうして通常のレモンシトリンではなくペリドットの特注品にしたんだ?」
「ああ、あれか。ジョイスも知っていたんだな、スカーレットがあの宝飾店のシリーズを集めていると」
「いくら令嬢方に興味がないとはいえ、耳には入るから」
「そうか。ペリドットは、黄緑は約束の色だったんだ、俺達の」
アルフレッドの意味深な返しに、ジョイスはどう言葉を続けるべきか悩んだ。
約束は疾うに破棄された、それも最悪な形で。だから、ジョイスが言うべきは…。
「あの贈り物が侯爵令嬢を更に傷付けてしまうとは思わなかったのか?」
その約束とは何か。もっと掘り下げなくては分からないことだらけだ。しかし、今はスカーレットの気持ちを考えろとアルフレッドに言うことがジョイスには最優先事項に思えた。




