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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都リプセット公爵家12

お茶会でスカーレットは参加者に近況を尋ねる。それはただの報告。困っているから助けて欲しいなどの陳情がなされてはいけない。仮にそんなことを言う者がいれば、他の参加者から後ろ指を指されるだけでなく、困っている憐れな貴族だと馬鹿にされるだけ。未来の王妃が開くお茶会はそれに相応しい内容、雰囲気でなければならない。場を曇らせるような話題はご法度だ。

それでもスカーレットはその報告から『助けて欲しい事実』をすくい上げていた。


「とある伯爵夫人が自領のレモンシトリンの話をされたそうよ。大きな石の周りを飾る用に最近は小さめに加工されています、とね。ジョイス、あなたならそれを聞いてどう思う?」

「女性の宝飾品の好みは分からないので、そういうものなのかと思います」

「そう、そんなところでしょうね、特にあなたでは」


ふっと息を吐き切り、母はジョイスの視線をしっかりと捉えると話の続きを今度は途切れることなく最後まで続けた。

宝石を小さめに加工すれば、更に細かい『残り』が残ってしまう。そして元々は宝石であったそれらもただの残り、即ちクズになってしまうのだ。それがその婦人の本当に言いたかったこととスカーレットは理解し、記憶する。重要なのはその場で夫人の話を掘り下げないこと。一つの貴族家に肩入れすることは公の場では絶対避けなければならない。特にその貴族家がキャストール侯爵家に連なっているのならば尚更。当然、スカーレットは『報告』が終われば言葉少なげに返事をするだけにとどめる。


またあるお茶会では若手の研磨技術力向上に力を注ぐ工房に出資している貴族家の夫人の話を聞き、別の時には伝統的なデザインばかりから新たなものに挑戦したいと思っているデザイナーを抱える宝飾店の話を聞く。


「ここまで言えば分かるでしょう。キャストール侯爵令嬢は貴族家同士の事業のお見合いを進めていたと。しかも、様々な派閥を上手く融合させながら。儲け話を断る貴族は普通いないわ、しかも裏で未来の王妃が手を回してくれているのに。クズでしかなかったレモンシトリンは大きなダイヤモンドのように失敗出来ないという怖さはない。若手はせっせと恐怖を持つことなく研磨する。宝飾店のデザイナーは持ち込まれた素材に侯爵令嬢のアイデアを絡め創造する。機会を設けてくれた最初の購入者になる侯爵令嬢の為に。そのデザイナー達はその成功を足掛かりに、いつか新たなシリーズを生むでしょうね。レモンシトリンだけではない。リボンの生地は服と違って、端切れでいいのよ。初期投資をする側も小さな残りや切れ端ばかりでリスクが小さい。だからあの宝飾店の『夜空の星シリーズ』は利益率が良いでしょうね。何より、その宝飾店がキャストール侯爵家とは縁がないということが重要だわ」


母の話から、ジョイスはスカーレットが貴族達のバランスを上手く保とうと努力していたことを改めて理解した。


「あのシリーズは利益率が良いとはいえ、元々の素材を考えれば高価なものではない。それこそ貴族のご令嬢達には普段使い、町の娘さん達には特別な時用という具合に。未来の王妃がコレクションしているとあって、若いお嬢さん達の間では有名だったわね。どう、あなたの教えて欲しいことには足りたかしら?」


十分過ぎる程足りたとジョイスは思った。それ以上にジョイスが知っておかなければならないことだらけだったと。


「ありがとうございます。母上」

「そう、良かったわ。恐らく女性の心を捉えることがお上手なあの方もあのシリーズが誰の考案で誰が集めているかは知っていたでしょうね」


最後の呟きは母のお節介なのか優しさなのか、それとも案外何でも見通しているのかとジョイスが思った時だった。母から次の質問がなされたのは。

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