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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都リプセット公爵家10

王宮の仮眠室よりは移動に時間が掛かるとしても自邸の方が良い。だからどんなに遅くなろうともジョイスはリプセット公爵邸に毎夜戻ってきている。


公爵家に生まれ、早い段階でアルフレッドの側近に選ばれ、いつか政治的バランスを鑑みた相手と結婚。そして常に国民へ王族としての笑みを浮かべるアルフレッドとスカーレットの横にいるはずだった。それがジョイスの歩む道。最初は父に示されたものだったが、途中からは自らの意思で進み続けた道だ。


勿論その道を進むのは容易くなかった。努力を惜しめば、先は閉ざされる。そうかといって努力だけではなく、細心の注意を払いながら進まなくてはいけない道だった。途中の貴族学院という覆いが被さった部分だって同じ。分かっていたのに、どうして貴族学院で立ち止まり確認することを怠ってしまったのか。シシリアの気持ちが悪意や媚びでなくても、どんなに純粋なものであろうと結果を考えなければならなかった。それどころかスカーレットを排除しようとするなんて、馬鹿にも程がある。


だからジョイスは大きな代償を負わされた。王宮内の誰の目にも見える処遇を受けるのだ。アルフレッドの側近から外されるという。そしてこれは当然のこと。

アルフレッドとスカーレットの婚約破棄で、王宮内では予定外の仕事が増えた。更にこれから先も発生することは目に見えている。それも神経をすり減らすような仕事ばかりが。お陰で多くの者達の業務量が増えた。それと同時に不満も。


しかしその不満の矛先は宙を彷徨う。王宮内の誰もが貴族学院で何が起き、どうしてこうなってしまったのか事実を知っているからだ。アルフレッドがスカーレットを冷遇するだけではなく、個人の感情で婚約破棄を告げてしまったという。


ジョイスとテレンスはアルフレッドの側近として、最後に重要な役割を担ったのだ。スケープゴートという。王宮内の者達の不満を直接アルフレッドへ向かわせない為の。側近を外されるのは、ジョイスとテレンスが側近としてアルフレッドに苦言を呈すことを怠ったからなのだと。


テレンスがいない今、矛先はジョイスへ向かってくる。ジョイスが失敗したからと陰口を言われ、どうせ側近を外される三男に過ぎないと軽んじられるのは当たり前のことだ。


アルフレッドに側近を外してくれと言ったときからこうなることは予想していた。それにこれは当然の代償。ジョイスの行ったことに対する結果がついてきただけ。だから辛さはない。寧ろ仕出かしてしまったことへ多少なりとも挽回する機会を与えられたことはアルフレッド、そして国王からの温情なのではないかと思える。あとは残された日々で全てを締め括るよう努力するだけだ。


国王に命じられ会議に出席した日から既にどれくらいの日数が過ぎただろうか。あの時からいずれ側近は外されると分かっていた。しかし、その年月は一年にも満たない。仕事が忙しくても、何を陰で言われようと終わりは確実にやってくるのだ。

でもスカーレットは違う。終わりがいつ来るかも分からない状況を貴族学院で過ごした。そして終わりが残酷な言葉で告げられた。ジョイスのように己の行動が故にそのつけを払うのとは違い、スカーレットには非がなかったというのに。


側近を外されることは罰にもならないとジョイスは思った。スカーレットの貴族学院での月日を思えば、吹いて飛ぶようなものだ。寧ろ、今のスカーレットとの状況の方が余程罰に等しい。距離もアルフレッドから告げられた最長で三ヶ月という期間も。しかも、スカーレットの傍にはあのデズモンド・マーカムがいる。


スカーレットへ続く道は、アルフレッドの側近になる為に横一列に並ばせられたあの時とは違う。試験のように当落選の基準も分からない。言えるのは進む方向も分からない中、切り開かなければならないということだ。


ジョイスは部屋の中を見回し、各国の大使からの贈り物を見た。どれも交流の結果贈られたものだ。アルフレッドの側近のままだったなら重要だっただろうが、今のジョイスには何の価値もない不要なものだらけ。それでもここが王都では一番落ち着ける場所なのがジョイスには滑稽に思えたのだった。

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