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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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結果から先に口にしたスカーレット。次の言葉を急かすことなく待つ為に、サブリナはゆったりとした動作で静かに紅茶を口に含んだ。サブリナが離縁を決意した理由を伝えたように、スカーレットも何故恋をすると決心したのか話してくれるだろうから。しかし相手は婚約をしていたとはいえ、自由な恋愛など許されなかった十八歳。スカーレットにとっては恋をすると決めること自体大変なことだったのではないかとサブリナは思った。結果に辿り着くまでには、様々なことを考えたに違いない。だからこそ、次の言葉を待つ。サブリナがそうだったように、誰かに話すことは、その誰かに伝えること。理解してもらうよう、自分自身の中で物事を整理しなければならない。


香りの良い紅茶で良かったとサブリナは感じた。互いがこれから進む道の分岐点に立ち、どちらを選んだか話しているというのに閉塞感ではなく解放感の中話すことが出来るのは。そして、サブリナがまた静かにソーサーにカップを置いたことを見計らうと、スカーレットが話し始めたのだった。



「不思議でしょう。あなたが離縁、別れを決心したことで、わたしはまた誰かとの繋がりを求めるだなんて」


言われてみれば確かにそうかもしれないとサブリナは思った。離縁ということは結局男女の関係が破綻したということ。それなのに、スカーレットはネガティブな現実に引きずられるのではなく恋をするという前進を選んだのだ。


「でも、本当にあなたがその選択をしたら恋をしてみようと思っていた。実は、ファルコールにやって来てから、二人の男性から気持ちをアピールされた…と思うんだけど、なんとなく踏み込めなくて、うやむやにしているというか、そんなことはないと否定しようとしているというか、気付かない振りをしているというか…。難しいわね、自分のことなのにどう言っていいか分からない」


二人。その内の一人は間違いなくデズモンド・マーカムだとサブリナは即座に理解した。否、スカーレットの周囲にいる人間でそれに気が付いていない者はいないと言ったほうが正しいだろう。

しかし選りにも選ってデズモンドとは分が悪すぎる。デズモンドとスカーレットでは、恋愛という分野において成熟した大人と立ち上がり伝い歩きを始めたばかりの子供と言っても過言ではない。サブリナには心当たりはないが、もう一人の方が相手としては良いのではないかと思った。


「でもね、わたしがそういう感情を持ってしまうのには理由があって…。二人共、最上級の選択肢だけれど、危険な選択肢でもあるから」


二人とも最上級。確かにデズモンド・マーカムは男として最上級だろう。女性に見続ける夢ではなく、現実に覚めることが出来る夢を見させるという点では。夢は夢だからこそ成り立つ。しかし、そのデズモンド・マーカムと並ぶ最上級の男性とは誰だろうかとサブリナは興味を持った。だから聞き続けるだけではなく、スカーレットが話し易いよう誘導することを試みた。


「一人はマーカム子爵ね」

「ええ、そしてもう一人はジョイス・リプセットなの」

「えっ?でも、あなたとリプセット公子は…」


サブリナはスカーレットとジョイスの接点を考えた。しかし、接点はあっただろうが恋へ繋がってはいけない仲だったはず。スカーレットはジョイスが仕えるアルフレッドの婚約者だったのだから。それに、貴族社会に流れた噂によるとジョイスは貴族学院でスカーレットを酷く謗ったはずだ。


サブリナは理解に苦しんだ。二人共危険な選択肢に過ぎない。どこが最上級なんだろうかと。


それぞれの視点で話を書くようにしているもので、こんな風に見えてしまうのではないかと。

お読みいただいている皆様も、この人はこのことを知らないからね、と思っていただけると幸いです。

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