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ダニエルに接触して先にアルフレッドの真意を探る、それに尽きると薫は思った。全てを開示したデズモンドは、そうすることでキャリントン侯爵の裏をかき、ここで自分を取り戻したいのだろうから。
「デズ、この手紙を見せてくれたということは、キャリントン侯爵がどういう予測を立てているか見当が付いているのでしょう?」
「大方は」
「正解に近い見当が出来るくらいあなたは『知っている』。だけど、わたしは知らない、どうしてデズがそう見当を付けられるのか。何より、こんなに優秀なあなたが子爵位を捨てる可能性があるファルコールにやって来た本当の理由が」
マーカム子爵家はキャリントン侯爵家の忠実な臣下、だからデズモンドは侯爵の命に従う。しかしデズモンドがファルコールにやって来たのは、そんな単純な理由ではなかったようだ。侯爵が書いた手紙の内容がそれを薫に教えてくれたのだった。
『話を聞くことが出来れば、その時期は早まるだろう』、これが手掛かりだ。
最初に見たあのやって来ることのない未来の夢。デズモンドの使命はスカーレットを社会的に抹殺することだったのだろう。そして、デズモンドの役割は今のこの現実でもそれに近い。ドミニクがファルコールにやって来た時の会話内容よりも気分が悪くなる話だと、夢のお陰で薫には分かってしまう。デズモンドは手段を選ばず、スカーレットをファルコールに縛り付けておくか、二度と社交界に出られないようにする為に来たのだ。
力あるキャストール侯爵家の令嬢、スカーレットに手段を選ばずにそこまでさせるにはキャリントン侯爵もそれなりの餌をデズモンドの目の前にちらつかせたはず。大抵の女性ならば手に入るデズモンド、しかも普段の様子を見る限り出世欲もなさそう。そんなデズモンドが欲しいものとは何なのだろうか。
薫はデズモンドの本音を知る為にも夢の内容を絡めて質問することにした。
「あなたがここに来た本当の理由は、少なくともわたしのおもりをする為ではないわ。ただ、おもりをすることであなたは何かを得る。侯爵が書いた『その時期が早まる』とはそのことね。でも、不思議なの。ここにいながらあなたが得るものは何?だって、わたしのおもりをすることはわたしが死なない限り終わりが無かったでしょう。わたしは誰かに命を奪われるのかしら。あなたはこの手紙を見せることでそれを阻止しようとしているの?」
「やっぱり君はそこにも気付いてしまうんだね」
「狡いわ、デズ。気付くことを前提に見せたんでしょう。リアムは知っているのよね?あなたが唯一信用しているリアムは」
「ああ。俺達の業は全て二人で墓場へ持っていくつもりだった。でも、どうしてか、ここに来てからというもの、進むべき道ではなく、違う道へ進みたくなった。明るく陽の光が届く道へ。リアムだって俺に付き合ってばかりではなく、本当は好きな道へ進むべきなんだ」
「道は無数にわたし達の前にある。選ぶのは自分。そして、その先にどんな景色が見えても、選んだ以上は楽しまないと。けれども、作為的に誰かが作った道に押しやられるのは違うわ」
「そうだね、キャロル。王都からこの道にやって来ることを決めたのは俺だ。そして、ここで、今まで通ったことがないような道に興味を持ったのも俺自身。興味があるからどんな景色を見ても楽しいよ。でも、この道の先に毒蛇は居て欲しくないし、絶体絶命の断崖絶壁に通じて欲しくはない。だから『その時期』が意味することを君に話すよ。あの日、キャロルが俺のところを訪ねてくれていなかったら、何をするつもりだったかも含めてね。先に言っておくと、キャロルの命そのものは奪われない。俺が奪うつもりだったのは、スカーレットの令嬢生命だから」




