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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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とある国の離宮7

テレンスの『前者を取る』という発言。マリア・アマーリエはやって来た全ての求婚者に、自分と結ばれることで得るものは何もない、寧ろ失うものの方が多いと伝え相手が断り易いようにしてきた。

だから、前者を取るならばマリア・アマーリエへの求婚は止め国へ帰ることが正しい。しかし、話を聞いた今では、求婚し婚約者にならない限り、テレンスは未来でではなく、直ぐにも様々なものを失い始めるということだ。


同じ轍を踏むことはないというテレンス。一人で己の信念の為に戦っている人間を二度と見て見ぬ振りなどしない自分を利用して欲しい、そこに婚約者という足枷を付ければ更に使いようがいいとは言うけれど…。


マリア・アマーリエは怖かった。ここで折角誰とも深く関わることなく生きてきたのに、テレンスを婚約者に据えることで今までの何かが崩れそうで。

アルフレッド王子という人物の人選は間違っていない。この短時間でテレンスは確かにマリア・アマーリエの心に侵入してきてしまった。全てを馬鹿正直に話すことが、実はテレンスの手法なのかもしれないが。


だから一つ意地悪な質問をしてみようと思った。次はどう答えるのか。


「ところでテレンス様、教えて下さらない。あなたは大切という言葉をその幼馴染に付けていたけれど、女性としては?好きな女性ではないのかしら」

「大切で、大好きな幼馴染。そしてわたしが知る女性の中で一番好きな人です。彼女との間には長い年月があります。ですから、勿論愛情もあります。しかしそれが男女間の愛情かは分かりません。どうこうなる関係ではありませんでしたから。そうですね、強いて言うならわたしは彼女の弟が羨ましかった」

「弟?」

「彼女には弟が一人います。傍から見ていても、大切にしていることは良く分かりました。彼女は弟の良いところを見つけては伸ばしてあげようと良く褒めていました。わたしは絵を描くことが好きなのですが、子供の頃から周りとは異なる画風で…。周囲の他の子供達からはよく変な絵だと言われていました。そんな中、彼女だけは褒めてくれたのです。それもただ褒めるだけではなく、良い点を挙げて。彼女の弟だったら、日々の生活の中で様々な良い点を見つけてくれたのではないかと思ってしまいます」


そういうことかとマリア・アマーリエは理解した。求婚者達から送られて来る手紙は大抵自己紹介、それも如何に自分が素晴らしい人物かということが自意識過剰に取られないようにしつつもしっかり売り込んでくるものだが、テレンスは他者と全く違った。不思議なタッチだけれど優しさを感じる多くの絵と少しの文章。しっかり自分の長所を売り込んでいたのだ。

そして、生を諦めているマリア・アマーリエに滑稽にも『生あるものの絵を描くことが好きです』という文章を書いてきた。


「あなたのあの手紙は長所をしっかりアピールしていたのね」

「良かった、目を通していただけて。確かに絵はわたしの長所でもありますが、大好きな幼馴染が教えてくれたのです。わたしの絵は人を楽しい気持ちに出来ると。殿下、同じ生きるならば無色の中よりも色とりどりの楽しい中で過ごしませんか」


マリア・アマーリエの頭に現実では有り得ない、耳に沢山の花を飾りダンスをしていそうなウサギやネコの不思議な絵が蘇ったのだった。

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