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親方達を招いての夕食会はとても楽しいものとなった。
当日は、既にこの館に二か月もいるというのに中々顔を合わせない畜産研究所の独身職員達にも参加を促した。彼らは立場上私兵同様薫がキャストール侯爵令嬢だと知っている。しかし、面倒なことが嫌いなのか、研究以外に興味がないのか、薫をキャロルと呼ぶことに最初から同意してくれていた。
「お嬢さん、今日はありがとう。珍しい料理が食べられて楽しかったよ」
「味はどうでした?」
「ああ、みんな初めて食べるけど旨いって言っていた」
「それは良かった」
この日薫はナーサに驚かれはしたが、少しだけ手料理を振舞ったのだった。足りない調味料があったが、そこはなんとなく似た感じを目指し頑張ったのだ。
ホテルでの食事にこの世界にはない目新しいものを取り入れたい。そこで、夕食会の参加者には実験台になってもらったという訳だ。
感触は概ね良好。独身職員達も言葉にはしてくれなかったが、完食してくれた。
その日の夜、薫は色々なことが動きだすという独特のワクワク感に胸が躍ったのだった。
『薫さん、おめでとう。ホテルが完成したのね』
「スカーレットさん、いらっしゃい。まだ完成していないのよ。もう少しすると、温泉施設が出来て、それで完成」
『まあ、そうなのね。じゃあちょっと早かったかしら。前回来た時は願い事が無かったけれど、今日ならあるかもと思ったのに』
「ああ、願い事ね。あるわ、ある!あのね、欲しいと思った菌が出来る入れ物が欲しいの。勿論危険な生物兵器につながるような菌ではなくて、みんなの為に有用な菌よ。温泉をあんなに上手く出したイービルだもの、菌を作る入れ物も出来るわよね?」
創造主の手から外れた今、世界は未知へ向かって動きだした。今まではそんな概念が無かったから発生しなかった病気が、今後自然発生する可能性がある。薫はそれを少しでも軽減したかった。ファルコールは山間の町。もしも何らかの病気が発生すれば、医師が二人しかいないファルコールは大変なことになる。しかも病気の原因が川の上流から下流へ流れてしまったら目も当てられない。
そこで確実にやっておきたいのが肥溜めの浄化だった。
正確な名前は思い出せないが、様々な菌が分解を進めることで肥料になってくれると思ったのだ。有害なものを全て分解して良いものにする菌、ついでに臭いを吸収してくれる菌があれば大助かりと。
ここで初回同様欲張りな薫が登場する。椎茸だって植菌作業で作られる、勿論他のキノコ類も。納豆菌に麹菌、酵母菌にヨーグルト菌。菌があれば、今日の夕食会で感じた足りない調味料を作る手助けになりそうだと思ったのだ。
だから、特定菌の要求ではなく、薫が望む菌が出来上がる入れ物が欲しかった。
薫が意気揚々と説明する横で、イービルはまたかと呆れ顔。
『まあ、それでは領民の衛生にも役立つだけではなく、薫さんの世界にあったキノコ類の栄養も取れるのね』
「それだけではないわ。新しい調味料を作ることで食の可能性が広がるし、いずれは領民がそれを作ることで収入にも繋がるはずよ」
薫の話に今回もスカーレットが嬉しそうに食い付いてくれた。スカーレットは領民の為になることが大好きなのだ。
嬉しそうなスカーレットの表情はイービルを簡単に仕事人に変える。薫は心の中で『しめた』と思ったのだった。




