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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都郊外クロンデール子爵家厩舎2

ハーヴァンから聞かされた内容は、ジョイスがここですべきことを明確にするものだった。そしてジョイスという存在がスカーレットにとってどういう位置づけなのかも。


同じ公爵家三男のスコルアンテは医師、そして温泉の研究の為キャロルに求められた。

浮名ばかりを王都の社交界で流し続けたデズモンド・マーカムは取引相手として信用されている。

そしてジョイスの従者ハーヴァンは、今後の計画に必要な人材として求められているのだ。

三人とも今のキャロルには必要不可欠な人物。


では、ジョイスは?

ファルコールでの最終日、ジョイスは恐ろしくも美しい笑みを浮かべたキャロルに何度も別れを告げられたことを鮮明に覚えている。繰り返すように別れの言葉を掛けられたのは、もう関わりたくないという意思表明だったのかもしれない。

しかしもう一つ、ジョイスが鮮明に覚えていることがある。スカーレットが最後に手を握り返したのだ。その感覚までもジョイスは思い出せる程、それは強い印象を与えた。


あの行為は何を意味していたのだろうか。それに、それまではジョイさんと呼んでくれていたキャロルが最後だけは『さようならジョイス』と言った。あれはスカーレットとしての言葉。楽しかった思い出を共に作ったジョイスへの別れに聞こえた。

握っていたスカーレットの手をジョイスが緩め、キャロルが再びジョイの手を取ってくれた。そんな虫のいいことをジョイスは思ってしまう、否、願ってしまう。スカーレットがジョイスにチャンスを与えてくれたのではないかと。ジョイスとして、キャロルと接することから始めようと。

ハーヴァンのように求められてはいないジョイス。しかし、やり直すならば拒否はしないと言われているように思えたのだ。


「ハーヴァンが牝馬に乗っていってくれ。おまえなら馬の体調管理に優れているから、最大限に労わりながらファルコールへ向かえる。繁殖には牝馬のコンディションが重要になるだろ?馬のことは良く分からないけれど、人間だって女性の体の方が労わらなくてはならないからな」

「ジョイス様らしいご意見ですね」

「子作りは男女でするが、胎の中で守り、命をかけて産むのは女性だけだからな」

「そうですね」

「しかし出産をするから女性を労わるのではない。男女の体の強さを思えば常に女性は労わるべき存在。そしてその体を持つ女性の心も。心が痛めば、体も弱くなってしまう。これは男にも言えるだろうが。…彼女は立場上どんな時も強くあろうとし、そう見せてきた。けれど、見えない心はどうだっただろうか。予算は気にしなくていいのだから、彼女が喜びそうな馬を選ぼう。心が弾み、体も元気になるような」

「はい」


キャロルならばどの馬を選んでも喜ぶだろう。そして大切にしてくれる。馬の為に温泉を利用した施設を作りたいと思っているくらいだ。


ジョイスがファルコールへ向かう時は既にキャストール侯爵家の私兵という立場になっていることだろう。最初の仕事はキャロルに馬を届けること。父はジョイスに理由を作ってくれたのだ。そのまま居つくのはジョイスの腕次第だが。

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