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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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とある国の離宮3

晩餐会の定義とは国によって大きく異なるのだろうかとテレンスは思わずにはいられなかった。

テレンスが知る晩餐会は招待客へ歓迎の意を示し親睦を深めるもの。しかし、今、この場は、正装をした者達がただ食事をする場にしか思えない。


見方を変えるならば、テレンス達三人はマリア・アマーリエへの求婚者、即ち競争相手同士。親睦を深める必要はないということだろうか。それにしても、否、それだからこそ客を迎えた側のマリア・アマーリエがそれぞれに話を振り今後三人の間に問題が起きないようすべきにも思える。この席では、マリア・アマーリエが何か話し出さない限り誰も口を開くことは出来ないのだ。


テレンスが到着時から薄々感じていたことは正しかったようだ。マリア・アマーリエは求婚者達を歓迎していない。最後に到着したテレンスなだけに、歓迎されていないのが自分だけの可能性もあると思っていたが、この晩餐会で確定した、マリア・アマーリエは全員を歓迎していない。


国王との謁見は形式的とはいえ、テレンスが通常だと思うスタイルだった。晩餐会だって、異国なので多少の違いはあったとしてもここまでではないだろう。だからテレンスの考えは正しいように思える。

会話がない空間は如何に美しく食事をするのか、マナーテストのようだった。


いよいよメインディッシュという段になり、静かだった晩餐会に侍従長の声が響いた。

「殿下より、皆様がお食事を楽しめているかとのお言葉ありました」


侍従長が耳打ちされたのはそういうことかとテレンスは思った。この国の姫は許された者以外に直接話し掛けてはいけないという作法でもあるのだろうか。それならば、テレンスのマリア・アマーリエが求婚者を歓迎していないという考えもまた違ってくるのだが。しかし、この状況でその質問はないだろうと言いたいところだ。


侍従長は淡々と、明日の午前中にマリア・アマーリエと時間を過ごすテレンス同様他国から来た客に問うた。

「ご配慮ありがとうございます。わたしにとっては初めての国の料理です。盛り付けや味をとても楽しませいただいております」


最初の者の回答はなかなか上手いものだとテレンスは思った。この質問の順番は離宮に到着した順なのだろう。ということは、次の回答者はこの国の者。食べ慣れているだろう味をどう楽しんでいるというのかお手並み拝見ということだ。それと同時にテレンスの回答の芽もしっかり潰している。同じことを言うにも、捻りを加えないことには。


二番目の回答者は、無難に離宮のダイニングルームでマリア・アマーリエと食事が出来ることに感謝をした。自国の王族と共に食事が出来ることを光栄に思えると。楽しさに関しては触れようがなかったのだろう。


「テレンス様はいかがでしょうか?」

「わたしの国とは違う点を楽しませていただいております」


テレンスは食事がとも、晩餐会がとも言わず短い回答をするに留めた。

どうせマリア・アマーリエは回答など本当のところ求めていない。ただ、何も言葉を掛けなければ失礼に当たるからお決まりの台詞を侍従長に言わせだけだろう。

婿探し、この言葉の定義すらこの国では違うのだろうかとテレンスは思わずにはいられなかった。

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